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第九話:仕掛けられた罠を突破しろ
「それじゃまた後でな」
「うん、また後で」
ヒラヒラとアランが手を振り、車が離れていく。
「行くか」
メインストリートから離れ、倉庫街をぬって歩く。
そして人目を避けながら十分ほど歩き、メインストリートが見渡せつつ、向こうからは見えづらい、という隠れるにはピッタリの場所を見つけたので、そこに二人で隠れる。
「よし、アタッシュケースを開けてくれ」
ハンドガンとナイフが入っていたアタッシュケースとは違い、細長いアタッシュケースだ。
いつもと違い重たいアタッシュケースを開けると、中には短機関銃が入っていた。
「旧ノースウェル軍が使っていたサブマシンガンだ。いつものハンドガンと弾薬を共有できるから便利だろ? 見た目は細いが、案外反動が大きいから気を付けてな」
手慣れた様子でイーサンがサブマシンガンのセッティングを済ませ、ミナトに手渡す。
「もう少しでこの通りをターゲットの移送車が通るはずだ。そいつのタイヤを撃て。そして止まった所に攻撃をしかける」
「……分かった。やってみるよ」
思わぬ重責につばを飲む。
グリップを握る手がじっとりと汗ばんでくる。
「期待してるよ、さぁ来るぞ」
静寂を切り裂くように、遠くからエンジン音が徐々に近づいてくる。
陰から少しだけ体を出し、様子をうかがう。
荷台が大きい、軍用車両のようなトラックが走ってくる。
「ミナト、どっちでもいい。後部タイヤのどっちかを撃て、ギアが後部タイヤしか付いていないからな。当たれば、絶対止まる」
「分かった」
トラックが近づいてきたので、いったん体を隠しやり過ごす。
目をつむり、大きく深呼吸をする。
ミナトが外せば作戦は失敗。
カエデにはもう一生会う事はできないだろう。
プレッシャーはある。だが不思議と心は落ち着いていた。
「ミナト!」
車がミナトたちを通り過ぎたタイミングで、イーサンが合図を出す。
ミナトはフッと息を止め、陰から体を乗り出しサブマシンガンを構える。
「絶対に当てる……!」
高速で走っていく、トラックの後部左タイヤを狙って引き金を引く。
ハンドガンを撃つよりも、大きな発砲音を立てて銃弾が連射される。
銃弾が命中したのか、パァン!という破裂音とともに、トラックがスリップし、少し進んだ所で停車する。
「よくやった、ミナト。行くぞ!」
「ああ!」
イーサンの号令とともに建物の陰から飛び出し、トラックに向かって走る。
トラックの荷台から、ライフルを持った男たちがズラズラと出てきて、こちらに気づくやいなや銃口を向けてくる。
「邪魔だ!」
イーサンが瞬く間に出てきた男たちを倒す。
そのまま運転手を引きずり出し、拘束しているので、その隙にミナトは荷台に乗り込む。
「カエデ、助けにきた……よ?」
荷台の中には誰もおらず、荷物が乱雑に置かれているだけだった。
慌てて飛び出し、イーサンに駆け寄る。
「イーサン、カエデがいない!」
「何だと!? おい、どういう事だ!」
イーサンが、運転手の胸ぐらに掴みかかり問いただす。
「さぁな、知るかよ……ヒィ!」
「俺達には時間が無いんだ。三秒以内に答えろ、それ以上は命の保証はない」
イーサンはどこからともなく取り出したナイフを運転手の首元に突きつけ、冷たく、低い声でカウントダウンを始める。
「三」
「や、やれるならやってみな!」
「二」
「俺は吐かないぞ!」
「一」と言いながら、イーサンはナイフを首に押し当てる。
皮が少し切れたのか、血がタラリと垂れてくる。
「だ、第二だ! あの異世界とやらから来た女は第二に連れていかれた!」
運転手が涙をポロポロ流しながら叫ぶ。
呼吸は荒く、過呼吸気味にキュー、キューと音を立てながら呼吸をしている。
「嘘じゃないだろうな」
「本当だ! 俺はお前たちを港から引きはがすための別動隊なんだ!」
「そうかい」
イーサンは運転手のみぞおちにパンチを入れ、気絶させる。
そのタイミングで、アランが運転する車が到着する。
「どうしたの?」
イーサンの並々ならぬ雰囲気を感じとったのか、アランが車を降りてこちらへ走り寄ってくる。
「くそッ、はめられた。移動しながら話す、全員乗れ!」
イーサンが悔しそうな表情を浮かべながら、運転席に乗り込む。
ミナトとアランは後部座席に乗り込む。
「時間が無い、荒っぽい運転になるぞ!」
そういった瞬間、車はタイヤが空転するような音を上げたあと、急速に加速する。
「いったいどうしたの? そんなにイライラして」
アランが運転席に身を乗り出し、悔しそうに顔をしかめるイーサンに聞く。
「ヤマガワ・カエデは第二の港に連れていかれたんだ。まんまとやられた」
「第二……間に合うの?」
「ここで失敗したら次は無い。絶対に間に合わせる!」
イーサンはそう言うと、さらに深くアクセルを踏み込む。
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