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1話
「絶対、帰ってきてくださいね。」
「ええ、勿論です。必ず、魔王を討伐し戻ります。」
婚約者とそう約束し、弟と騎士達を引き連れて魔王城へと向かった。
僕は弟より剣術は劣っているが、魔法なら負けていない筈だ。
回復魔法も使える為、皆が怪我をしてしまっても直ぐに治せる。
だからこのパーティに必要な存在だと自覚していた。
それなのに。
「なぁ、兄さん。ちょっと話があるんだ。」
最近、弟の容態がおかしいことは気づいていた。
それもそうだろう、弟の想い人が僕の婚約者となってしまったのだから。
だが彼女は弟のことをよく思っていなかったらしい。
報われない恋だったという訳だ。
「どうしたの、レヴィル。」
パーティの皆には聞かれたくないのか、キャンプから外れて森のなかに入っていく。
少しだけお酒を飲んだからか、暫く歩いていると頭がふわふわし始めた。
「レヴィル、ごめん。少し酔ったみたいだから話は…」
「当たり前だろ、酒に睡眠薬混ぜてるんだから。」
「……ぇ?」
「兄さんのせいで王位継承できないし、彼女は取られるし…恨まれてないとでも思ってた?」
「れ、レヴィル……?」
「俺が言いたいこと、頭の良い兄さんなら分かるだろ。」
ぐらり、と目が回り地面に座り込む。
頭が上手く働かない。
………逃げないと。
「逃がさないよ。というか、よく睡眠薬飲んでここまで耐えれるな。」
足に力が入らず立てない。
両手を地面に付けて四足歩行で遠ざかろうとした瞬間、背中に激痛が走った。
「がッ!ぐ、ぅ…」
痛み、哀しみ、苦しみが一気に襲ってきて、地面に水滴が落ちていくのを見ているしか出来なかった。
いつから、弟はこうなってしまったのだろうか。
昔は僕を慕ってくれる可愛い子だったのに。
「れ、ヴィ……ル。なん、で………」
「まだ喋れるのか。煩いな……さっさと死ねよ。」
「ど………して……こん、な……」
弟に手を伸ばすも、払い落とされ踏みにじられる。
痛い。痛い。苦しい。………さむい。
どさりと音が聞こえたと思うと、自分の体が動かずに地面に倒れ付していた。
だんだん視界も悪くなり、感覚が麻痺しはじめる。
身体中が血を無くしたことにより冷えていく。
意識が、途絶えた。
「チッ…やっと死んだのかよ。手間かけさせやがって。
じゃあな、兄さん。……いや、ロウェル。」
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