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私には大切な想い出があるんだ。
小学2年生の夏だったかな。私は綺麗な青いチョウチョを追いかけて、山に迷い込んだの。
『勝手に山に入ったら、青い鬼に食べられるよ!』
そんなお母さんの言葉を思い出して怖くなってた私の前に、青い鬼が現れたんだ。
「迷っちゃったのかな?」
綺麗な青い髪に真っ青な瞳、綺麗な顔立ちに透けるような白い肌。角はなかったけど、一目でお母さんの言っていた鬼だと思った。でもね、私を撫でてくれた手はすごく温かくて、柔らかかった。だから、私はすぐにその鬼を好きになったんだ。
「おにさん、にんげん?」
「違うよ。みんなが怖がるから、見つからないようにここにいる」
そう答えた時の鬼の寂しそうな笑顔、
「おにさんの名まえは?」
「…ない」
答える鬼の辛そうな顔を見てたらすごく寂しくなっちゃって、思わず言ってたんだ。
「あゆみが名前つけてあげる! おにさんの名まえは『あお』! かみも、目の色も、青いから」
今考えてみると、とんでもないよね。まるで犬や猫につけるような名前だよ。でも、鬼は優しく微笑むと私の頭を撫でてくれたんだよ。
「ありがとう、あゆみ」
そして『あお』は、私を綺麗に舗装された山道まで連れて行ってくれた。
「ここをまっすぐ行けばお父さん、お母さんに会えるよ」
「ねえねえ。また『あお』に会いに来てもいい?」
これでもうお別れなんて嫌だった。でも『あお』は怖い顔で首を横に振った。
「今度はあゆみを見つけられないかもしれないから。危ないからだめだよ」
「そんなのやだ!」
私は『あお』の腕を掴んだ。『あお』は優しく微笑むと、私の頭を撫でた。
「大丈夫。また会えるよ」
「ぜったいだよ! あゆみは『あお』のことわすれないからね!」
そして、私と『あお』は指切りをして別れたんだ。
『あお』は本当に私の事を憶えていてくれてるのかな。
私はまた『あお』に会いたい。
私は『忘れない』って約束、まだ守ってるんだよ。
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