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「鮎巳の方向音痴には呆れるよ!」
HRが終わった途端、中学からの友達の香奈に怒鳴られた。
まあ、言われてもしょうがないとは思うんだ。講堂までは、校門から続く並木道の十字路で右に曲がればすぐに着く。今日は、沢山の入学生が列を作っていたし、私は香奈と一緒に来てたから、間違えるわけないんだけど。
…でも、間違えたんだよねーって… 情けない。
「いきなり横から消えてるし、これから綱つけとこうか」
「それはやだ」
「だったら、ちゃんと道を覚えなさいよね」
香奈がため息をついた。
そりゃ、覚えたいとは思うんだけど… 私、道とか人の顔や名前を覚えるのって苦手なんだよね。まだ香奈の苗字も覚えてないし、中学校への通学路も覚えられなくて大変だったんだ。
「今回こそ頑張る」
私が力強くうなずくと、ふいに香奈が首を傾げた。
「はぐれた後どうやって講堂に来たの?」
「道案内してくれた子がいたんだ。綺麗な青い髪と目の男の子。気付いたらいなくなっちゃって、お礼も言えなかったんだけどさ」
「青い髪と目ねえ。鮎巳、前にそんな人の話、してなかったっけ」
あ、香奈には『あお』の話をしてたんだっけ。
「青い髪に青い目をした優しい鬼の事でしょ?」
「それそれ。で、その子、その鬼だったの? 鮎巳、会いたいって言ってたじゃない」
「違う。あの子は私よりも年下に見えたし、ここの制服着てたもん」
私は頬杖をつくと、教室の入口に目を向けた。
…なに? あの子。
入口のドアにしがみつくようにして中を覗き込む、小学生くらいの男の子がいた。
「どこから紛れ込んだの? あの小学生」
香奈も男の子に気付いたみたい。私達は思わず顔を見合わせた。
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