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僕は唾を飲み込んだ。意に反して、ごくりという大きな音が鳴る。
「それは……どっちも、かな。ずるいのは分かってる。でも、伝えないと後悔するような気がして」
「分かった」
君は僕から視線を外して、正面を向いた。花火が上がる方向だ。
「花火が始まる前までなら、いいよ」
君は『彼女』として、僕の話を聞いてくれるつもりなのだ。
僕はもう一度唾を飲み込み、口を開いた。
「ありがとう」
僕も正面を向いた。
僕だけ君を見つめているのは、なんとなく不公平な気がしたから。
腕時計を見る。19時まであと3分。
「今日、たった3時間だけだったけど、君とここに来られてよかったよ」
君がうなずく気配がした。
「ここはね、僕の思い出の場所なんだ」
今日乗ったのは、メリーゴーランド、コーヒーカップ、子供が乗るような小さなジェットコースター、バイキング。
あの日と全く同じ乗り物に、あの日と全く同じ順番で乗った。
「僕が高校生の時、初めてできた彼女と来た場所」
過ぎ去り日の彼女を思い出して、僕は頬を緩めた。
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