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「どうなんだろう。これは、セックスとか、そういうことが絡んでしまうのかな」
「わ……、わかんない、よ。そんなの」
「一緒にいすぎたね」
ふっと青がかがみ込む。額にそっとくちびるが触れた。体温が上がる。
「うん、でも、きっと、そうだよな」
「……あお、」
「かもめの家に行きたい」
青の指からほんの少し、力が抜けた。
「でも、それは、やめた方がいい気がした。お仏壇に線香あげれないけど。……行かない方がいいって思った時に、答えは出てる」
「……来ない?」
「うん。行かない」
青は鮮やかに笑う。
「だから、帰ろう。送るから」
「青」
冷たいと言われた指を、青の骨の目立つ指に絡める。耳の方まで熱かった。どうせ暗くて見えやしないのに、うつむいてしまう。
「……来てよ、って言ったら、どうする?」
乾いたくちびるを舌先で舐める。かすかに潮の味がした。
「いいよ、来てよ」
「俺は、今、かもめのお父さんもお母さんもいないことを知ってる」
「……今まで普通に来てたじゃない」
「だからだよ。かもめ、俺はね、かもめに力で勝てるし、かもめの優しい言葉につけ入るくらいの頭はある。……やめよう。ごめん。忘れてよ」
「……意気地なし」
青が笑う気配がした。裸足のまま歩き出すのに着いていく。手はやんわりと振りほどかれた。
ぱちんぱちんと古びた街灯が点滅する。羽虫が舞っている。公民館の前の自販機で、青が足を止めた。
「なにか買う」
「……ん」
小銭入れを取り出して、百円玉を自販機に投入する。麦茶を一本。その場で半分飲んで、青に差し出す。ありがとう、と言って青が一口飲んだ。
黙って歩き出そうとしたら、こつんと手の甲に青の手があたった。
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