月まで片道30分、ルナ・マリアまで

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「かもめ。俺は忘れないよ。ちゃんと覚えてる。大丈夫」 「……わかってる。青は、いつもそうだよ。わたしが忘れちゃうことを覚えてる」 「そうかな」 青の、傷の少ない方の右手が、わたしの肘のあたりをつかんだ。 「かもめも、忘れてないのに?」 「……忘れてたよ」 「うそ」 こんな時ですら、青の柔らかな笑顔は変わらなかった。青い瞳がわたしの顔を覗き込む。 「うそ」 「……うそじゃ、ないよ」 「うそだったら、ずっと外見てるわけないだろ」 「外なんか見てない」 「じゃあなんで俺を追いかけてきたの」 「……言わないで」 「うん。分かった」 青の手から力が抜けて、するりと手のひらの方に移動した。指先と指先だけを引っかけて、青はわたしの手を引く。 今更ながら青の手がわたしの腕をいとも簡単につかんだことに背筋が震えた。その、震えは、すこし、甘いような気がした。 ……気のせいだ。 「透かしホオズキのランタンを作ったよね」 波を踏みわける音に紛れそうな声で、青はささやく。 「たまにおばあちゃんが、中の実を糸切りばさみで取って、かわりにビー玉を入れてくれた。俺のは金色か青色で、かもめのは赤か緑か」 「うん……」 「おばあちゃんはホオズキで笛を吹けた。夕飯は里芋の煮っころがしをよく出してくれて、お昼のそうめんには庭先で採ったシソを一緒に出してくれて、」 「やめて」 「いや?」 「うん。……苦しい」 じゃあやめる、と青は穏やかな声で、振り返らないまま言った。少し伸びた髪の毛がさらさら揺れている。色素が薄いせいか、光の加減のせいか、金に見える。 ちいさい頃はもっと金髪に近かった、と、思う。縁側で昼寝して目覚めると、たいてい目の前にあったのは金の海だったから。
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