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「いやか。でも、いやだよな」
「……青に分かる?」
「俺も、かもめでも、俺の母さんの話しをされたら、嫌かもしれない」
「……」
「……俺の母さんは、別に、分かりやすくダメな人だから、また別の話しだろうけど」
息を、吸う。彼が母親の話しをすることは、珍しい。
「どれだけ話しても、もう取り返しがつかないのは、いやかもしれない。苦しいだけだから」
涙が熱かった。青が振り返らずに歩いてるので、流れるままにする。
「……うん、いやだな。かもめはきっとそんな話ししないだろうけど」
「……青がいやなら、しない」
足首にあたって、星が溶けた海が泡立つ。
「しない。そんな話し」
「でも、たぶんだけど」
白いシャツがかすむ。はやく泣き止まないと、青にバレてしまうだろう。
「苦しくて仕方なくなることは、話さないともっと苦しいんだろうな。はやくぜんぶ話して、苦しいの吐き出した方がいいんだよ。勇気が足らないけど」
「勇気?」
「……吐いてしまうと、自分の胃液でのどが焼ける」
「そうなの?」
「うん。胃液の酸は強いから。悪いものを、食べたら、吐かないと治らないだろ。でも、塩酸で自分の身体を焼く勇気なんて、本当は持ってないんじゃない。のどの奥に指を突っ込んで、塩酸を吐き出す勇気なんて。……寒い?」
「ううん。大丈夫」
「指が冷たい」
指が絡まる。やはり、大きい、と思った。こんなに大きかっただろうか。どうしても青には華奢なイメージがつきまとってしまっている。
「細いね。かもめの指は」
「そ、う?」
「腕も」
すいっと手が引かれる。連られて大きく出した一歩で、青の横に並ぶ。
「さっき、そう思った。ほそいって。ねえ、かもめ、」
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