ありふれた1日

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ありふれた1日

 中学3年生の教室と言うものはどこも似たようなものだろう。単語帳を捲って必死に受験勉強をしている者もいれば、勉強そっちのけで友達と話している者もいる。浮き足立っているような不安感が教室内を漂っている。  そんな中、誠治はさやかから休んでいた間のノートを借り、写していた。 「うわー、結構進んでんだな」  思わず頭を掻いた誠治に、さやかが吹き出す。  意識しているわけではないのだが、誠治は袴姿で神社の業務をしている時は敬語になり、それ以外の時は年相応の話し方になる。さやかにはそれが面白いらしい。思わず眉を顰めた誠治に、さやかが顔の前で手を合わせる。 「ごめん、ごめん。なんかね、最近授業が遅れてるからって、先生が慌てて教えたんだよ」 「だからか… ノート、サンキュ。いつも助かるよ」  誠治がノートをさやかに手渡す。 「どういたしまして」  さやかはノートを受け取ると、声を掛けてきた女友達の方に走っていった。入れ違うように後ろの席の大宮俊夫が戻ってくる。 「なあ、神道。お前橋口と付き合ってるのか?」 「はあ?」  突拍子もない話に、誠治は慌てて首を振る。 「付き合ってないって。どうしてそんな話になるんだよ」 「だってお前ら仲良いじゃん。今日だって一緒に学校来てたし」 「家、隣だから。幼馴染みだし」 「さっきだって2人で話してたじゃないか」 「ノート借りてたんだよ。いろんな人のノート借りたけど、さやかちゃんのノートが一番見やすいんだ。そんなの、昨日今日の話じゃねえだろ? なんでまた、いきなり…」  顔を顰めた誠治に、俊夫が頭をかいた。 「実はさ、俺の友達が橋口の事好きらしくてさ、いろいろ聞いてこいって言われて」 「そうなの? ふーん… さやかちゃん、モテるね」  幼い顔立ちのさやかはくるくると表情を変える。今朝のようにふくれたり、笑ったりすると年齢よりもかなり幼くなる。そんなところが男子に人気なのだろうか。なんとなく胸のあたりが気持ち悪い。それを振り払うように頭を振った誠治に、俊夫が肩をすくめた。 「お前もだ」 「はあ?」  呆気にとられる誠治に、俊夫が額に手を当てた。 「気付いてなかったのかよ。俺なんて、部活の後輩から『神道先輩ってどんな人なんですか?』とか、いっつも聞かれて苦労してんだぞ」 「知らねえよ、そんなの。俺、告白された事ねえし」 「その後輩は、綺麗すぎて近寄り難いって言ってたけどな」 「近寄り難いか? 俺」 「いや。俺はなんとも思わねえけど。でもさ、ここまで騒がれてたら、告白されなくっても気付くだろ。神道って鈍感なんじゃねえか?」  誠治はどう答えていいかわからず、呆然と俊夫を見つめた。
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