ありふれた1日

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 誠治が家に戻ると、境内には既に大勢の子ども達が遊んでいた。 「あ、誠治兄ちゃん! おかえり~」  1人が声を上げた途端、遊んでいた子ども達が誠治に駆け寄ってくる。 「ただいま」 「お姉さん、帰ってきてるよ」 「わかった。みんな、怪我しないように遊んでね」 「はーい!」  子ども達が思い思いに走り出す。誠治は神殿の奥の自宅へ向かった。2階建ての自宅の玄関を開ける。 「ただいま」 「お帰り」  上がり口に細身で長身の美女が麦茶のポットを持って立っていた。  姉の神道飛鳥。私立緑陵学園大学部音楽学部1年の飛鳥は、高校時代から『White』と言うグループ名で歌手活動もしている。 「今日は仕事じゃなかったの?」 「休み」  靴を脱いで上がると、すぐ右手の和室に客が来ていた。飛鳥と共に『White』を結成している北原友貴、笠原美衣、村上龍太の3人だ。 「何かやってたの?」 「会議」  ポットを卓袱台に置いた飛鳥が無愛想な声を上げる。一番手前にいた美衣が手を上げた。 「あ、誠治くん。お帰り~! 明後日TVの収録があるから、その相談してたの」 「あ、なんかライブやるって話?」 「そう。俺達、ライブ形式の番組って出た事ないだろ? どうしたもんかと思ってさ」  さやかと反対隣りに住んでいる友貴がグラスに麦茶を注ぐ。友貴からポットを受け取った龍太が誠治を見た。 「誠治くんも飲む? 麦茶」  飛鳥の恋人でもある龍太は、男から見ても美形だと思う顔立ちをしている。友貴も美衣も綺麗な顔立ちをしているから、これだけ揃うと壮観だ。 「俺はいいや。外、行かなきゃだし」  誠治は軽く手を上げると、和室の前にある階段を上って自分の部屋に入った。鞄を机に投げ出すと、その勢いで中身がこぼれ出る。 「やっべ、やっちまった」  帰る時に鞄に放り込んでいた緑色のシャープペンシルが床に転がる。誠治はそれをペンケースにしまうと、飛び出した中身を鞄に押し込んだ。制服を脱いでハンガーに吊るし、横に掛けていた袴を手に取る。 「…ま、いいか」  誠治は下着姿のまま袴を抱えて裏庭に出た。木が生い茂り薄暗い裏庭には井戸があり、誠治はいつもその井戸で禊をしてから袴を着るのだ。袴を身につけた途端、誠治は『神に仕える者』になる。 「では、いきますか」  誠治は壁に立て掛けておいた竹箒を手にすると、境内へ歩いていった。
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