君とともに…

1/1
前へ
/22ページ
次へ
 この町内の憩いの場といえば、住宅街の真ん中にある『神社』だ。正式には神道系の新興宗教の御社なのだが、町内の住人は皆ここを『神社』と呼んでいる。昼下がりから夕方にかけては子ども達が遊び、子どもを迎えに来る親達が井戸端会議で盛り上がる。  その憩いの場を守っているのは、公立中学3年に在籍する神道誠治。  平均身長より少し高い身長で細身、整った顔立ちの誠治は、笑顔を絶やさぬ温和な性格で町内一の人気者だ。5年前に両親を亡くして以来、神主として御社を守っている為、なかなか学校にも通えずにいるが、高校進学の為の受験勉強も手を抜いている様子はない。誠治自身がこの場所を大切にしていて、皆の憩いの場を守ろうとしているのだ。 「今日もいい天気になりそうですね」  誠治の1日は参道を掃き清める事から始まる。袴を身に着けた誠治は竹箒を手にすると参道に向かった。  神社は石造りの鳥居の右手に小さな社務所があり、砂利の敷かれた短い参道の先に小さな神殿がある。鳥居の形は他の神社とは違い、斜めに建てられた柱に横に1本渡されただけのコップを逆さにしたような形をしている。神殿には注連縄も鈴も賽銭箱もない。神殿の裏手に見える2階建ての家は誠治の自宅だ。 「おはよう、誠治くん」  スポーツウェアに身を包んだ小柄な少女が鳥居から入ってくる。  隣に住む誠治の幼馴染みで、中学のクラスメイトでもある橋口さやかだ。さやかは朝一番に町内をマラソンするのが日課で、マラソン前のストレッチをここで行うのだ。 「おはようございます、さやかちゃん。今日も走るんですか?」 「日課だからねー」  さやかが誠治の横に立つ。小柄なさやかは誠治の肩くらいまでしかないので、話をする時にはかなり見上げなければならない。肩までの髪を軽く揺らして見上げる仕草に、誠治が苦笑する。 「日課なのもいいけど、こんな暗いうちから走るなんて、おじさんとかおばさんとか心配しませんか?」 「やめなさいって言われてるけど、日課になっちゃってるから、走らないと逆に体調悪くなるんだよね」  さやかがふくれる。誠治は微笑むとさやかの頭を撫でた。 「こんなに可愛いから心配なんですよ。危ない目に合うかもしれないから」 「あたし、そんなに子どもじゃないよ! もう」  毎日繰り返されるやり取りを切り上げるように、誠治に背を向けたさやかが社務所の前でストレッチを始める。誠治は肩をすくめると、参道を清め始めた。 「そうだ!誠治くん、今日は学校行ける?」 「テスト前ですからね。行きますよ」 「じゃ、一緒に行こう!」  さやかが立ちあがり、軽く伸びをした。 「はい。迎えに行きますか?」 「あたしが迎えに来る」 「わかりました」  誠治が手を止めてさやかを見る。さやかは服を軽く叩くと手を上げた。 「じゃ、あとでね。行ってきます!」 「行ってらっしゃい」  さやかが走り出す。誠治はその姿が見えなくなるまで見送った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加