有難うを君に

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 ジリジリとした暑い夏の日。  小さな身体で精一杯空を見上げて、声の限り泣いている君と出会った。  最初はあまりの大きな声に、凄く驚いたのを覚えている。  縁あって君と一緒に過ごした日々は、とても楽しくて、幸せで満ち溢れていた。  僕が家に帰ると、真っ先に玄関先で出迎えてくれる君がとても可愛くて。家に帰るのが楽しみになった。   仕事でミスして落ち込んだときや、悲しいことがあった時はずっと傍に寄り添ってくれた。君がいてくれたおかげで、心癒され、早く立ち直ることが出来た。  いたずらっ子で少しおっちょこちょいだった君はいつも笑顔の中心で、僕の心の拠り所だった。  その君と、どれだけの時を過ごしたのだろう。  移ろいゆく季節の中で、君は少しずつ衰え、気が付けばほとんどを眠って過ごすようになっていた。  今日は朝から君の体調が優れず、嫌な予感がした僕は、仕事を休み、君の隣にいる事にした。  いつかの君みたいに、ずっと傍に。  眠っている君の容態が急変したのは、奇しくも、あと8分で君と出会って丸17年になろうとしている時だった。 カチコチと時計の針の音が嫌に耳に届く。  君はふかふかのベッドの上で浅い呼吸を繰り返し、時折、苦しそうに身体がけいれんを起こしている。  僕はそれを眺めることしかできない。  あまりにも苦しそうな君を見るのが辛くて、もうすぐやってくる終わりが怖くて、夏なのに身体が冷えきり震えが止まらない。  まだ大丈夫だと自分に言い聞かせても、勝手に涙が溢れ出る。  ぼやける視界の先にいる君は、まだ頑張っていて……  そんな君の姿が見えなくなるのが嫌で、それをごしごしと何度も拭い、目の下は少しだけヒリヒリと痛んだ。  零れる嗚咽を飲み込んで、ゴツゴツとした細い身体を優しく、優しく撫で、君の名前を呼ぶ。  意識は朦朧としている筈なのに、僕の声に反応した君は聞き取れないような、小さな小さな声で一鳴き。  それきり、動かなくなった。  受け入れ難い現実に目を背けたかった筈なのに、思わず見てしまった時計の針が指示していた時刻は、23時55分。   ――あぁ、あと5分で、君と出会って17年目の記念日、だったのに、ね。  壊れた涙腺からボタボタと落ちる雫が、君の身体を濡らしていく。  みっともなく、大声で泣いて、泣いて、泣いて、君の名前を呼ぶ。  いつもみたいに、返事をしてよ。  そう呟いても届くことはなくて。  老いてボサボサになった毛を何度も何度も撫で、まだ温かい君に告げる。 ――ありがとう。  後5分でも長く、君と一緒にいたかったけれど、君と出会った記念日と君を失った日が一緒にならないようにしてくれて、有り難う。 ずっと、ずっと、大好きだよ  
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