1人が本棚に入れています
本棚に追加
誰もいない更衣室。
お先、と上がった僕は、さっさと着替えて、バイトを上がる。
このバイト先は正直合わない。周囲が悪い人というわけではないのだけれど、みんなの輪になかなか馴染めず、3か月続けてみたがそろそろ辞めようか、と弱気になっている。このバイトの目的は趣味のゲーム課金のためだから、優先順位は低い。
そうだ、今日は楽しみがある。帰ったら、待ちに待った新規ガチャだ。窓からわずかに見える曇天の夜空に、天井まで回すぞ、と誓う。宇宙だってそんなこと誓われたって困るだろうけれど……。
「さてさて、今夜は七夕です」
大ぼらを吹きながらバックヤードに顔を出すのは、社員のタケナカさん。
ネクタイは少しくたびれているが、真面目そうでいて喋ってみると案外気さくな38歳。あまり積極的に周りと絡みにいかない僕が、唯一話しやすいと感じる人だ。
彼は後ろ手でスライドドアを閉めると、びしっと僕の方を指さしてくる。
「お帰り際のムサシヅカくんにクエスチョン!」
ああ、これはあれだ。
僕たちの恒例行事。居住まいを正して迎えうつ。
タケナカさんが口を開くまでの永遠にも思える一秒が経過した。
「星が……、」
「ほしい!」
2人で顔を突き合わせてニヤッと笑う。
我ら駄洒落同好会。
20歳は違おうという二人の共通点は、<しょうもない>オヤジギャグが大好きということだった。
「定番だよなあ」「ですねえ」
ウンウンとうなずき合う。
子供時代から駄洒落が好きだったが、まさかバイト先のコンビニで同好の士に出会うとは思わなかった。
聞けばタケナカさんは「ダジャラー」の称号を持っているとかなんとか……。30年戦士にはぴったりのなかなかそそる称号だ。
最初のコメントを投稿しよう!