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茜色の世界にて
最悪だ…
夏のあの日から数か月、俺は何故かあの時の茜色の世界にいる。
これは夢だろう。
なぜかって? あの時の光景が今、目の前で起きているからだ。
しかも、これが何日も続いている。何日も、何日も あの死人達を見ている。
もっと最悪な事がある。 あの時の俺が階段を降りた後、必ず
死者たちは俺の方を向いて突っ立っていることだ。
何もしてこない。ただ、見てくるだけ。
それならまだいいかもと思うかもしれない。しかし、ついてくるのだ。
顔のない子どもや、四肢がもげた女子高生(中学生かも) 下半身しかない大人まで
全員が俺が見えているように、俺が歩くと、あっちも歩く。止まると止まる。
それ以外は本当に何もしてこない。触ろうともしない。
そして、駅の電車がくる時になるベルが鳴ったら目が覚める。
しかし、今回は違った。
駅に誰もいないのだ。階段から上がってくる俺自身の姿もない。
毎回いる死人もいない。それどころか、動物、虫一匹すらいない。
そして、駅のベルも鳴らない。
俺は察した。これは抜けられないやつだと。
ネットで「きさらぎ駅」という話を見た事がある。同じように、ここも抜け出せるかもしれない。
俺は、駅から出て、周りを見渡してみた。やはり、何もいない。
あの時は、駅から見て西の方向に一番近い駅があった。その方向に進めば何かあるかもしれない。
そう思い、俺は歩いた。
***************
どのくらい歩いただろうか。
線路沿いに歩いたものの、駅はまだ見えてこない。
このぐらい歩けば次の駅にはついてるはずだ。
その時、電車が走る音が目の前からしてきた。
こんな時に電車!? じゃあ、俺がいたのはあの夢の結構前の時間だったのか?
いや、それよりも、走れば間に合うか? いや、相当な時間で歩いて来たんだ 間に合うはずがない。
そう思い、前から走ってくる電車を見送って歩き出そうと思った。
しばらくして、電車の影が見えてきた。
怖い話でよくあるのは、こんな世界での電車はあの世行きって書かれてるのが定番だ。
さあ、なんて書いてあるだろうか
「●●駅行き 快速」
ふざけるな 俺があの町に行く時に使った駅じゃないか
そう思い、俺は元来た道を全力で走った。 間に合うとは思っていなかったが、それでも走った。
不思議なことに、ものの数秒で駅に着いたのだ。
意味が解らないが、駅のホームまで俺は走った。
幸いにも、電車はまだ来ていなかったが、その代わりにホームには死者達が立っていた。
本当に最悪だよ。このパターンは死者に止められるやつだと思い、自分は足が動かせずにいた。
そうこうしてるうちに電車が来てしまった。
ああ、帰れない。
そんなことを思っていると、何人かの死者が俺の方に走ってきた。
俺は恐怖で足が動かない。
ああ 俺は死んでしまうのか。
そう思ったが、死者達は意外な行動をとった。
なんと、俺を投げたのだ。もう信じられない。
駅のホームに投げ出された後も、ホームにいた無数の死者達によって、電車に無理やり乗せられた。
乗せられる瞬間、俺は考えた
「これ、あの世行くやつじゃないか?」
そう思ったが、遅かった。電車のドアが閉まり、動き出したのだ。
俺は窓から駅のホームを見た。
死者達は笑っているかと思ったが、意外にも無表情だった。
こうゆう時は笑うやつなのでは?
そう思ったが、すぐに考えるのをやめて、椅子に座った。
乗客は俺一人。走る音しかしない。
もう終わりか。と思い、俺は眠ってしまった。
**********************
目覚ましの音だ 今何時だろうか…
目覚ましの音?
俺は跳ね起きた。
俺の住んでる部屋。俺がいつも寝ているベット。
戻ってこれたのだ。
現世に戻ってこれたのだ! いや、夢から覚めたという方がいいだろうか。
そんなことはどうでもいい。仕事に遅れてしまう。
俺はそう思い、急ぎでシャワーを浴びに行った。
鏡を見た時、俺は言葉を失った。
体中に無数の手形が残っていたのだ。
しかし、すぐにあの時の死者達のものだと思い、感謝した。
あの時、俺があのままあの世界に残っていれば、確実に帰れなかっただろう。
そうだ、あの駅に行って花でも置いてこよう。とびっきりたくさんの花を。
**********************
俺は、あの駅にまた来た。
あの時に案内してくれたばあさんにも会った。
そして、花を添えて、俺は帰りの電車に乗った。
また来るかもしれない。そう思い、俺は遠くなっていく駅のホームに目を向けた。
あの茜色の世界、そして、地下道を上った先の扉で会った死者達が駅のホームに立っている。
そんなことはなかった。
しかし、あそこにいた死者達はもう成仏しただろう。
そうであると思いたい。
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