507号室

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「ちょっと聞いてよ。昨夜すごく怖いことがあったのよ」  朝いつもより早くに目が覚めてしまった早川緑子は、30分早く出社した。  既にオフィスにいた、社長であり、高校時代からの友人である桑田由美理をつかまえて、開口一番、言った。  上司と部下らしからぬぞんざいな口調は、他の社員達がまだいないからだ。  なによ、と由美理は笑った。  実家が裕福だったこともあり、由美理はまだ三十代の若さで、この洒落たオフィスを構える不動産会社を興した社長だ。  もともと商才にも恵まれていたのだろう。 今では管理しているマンションは数十棟にものぼる。  対して緑子は、その会社の平社員。 結婚して専業主婦になっていたのが、夫の浮気で離婚。 出戻って就職に困っていたところを、友人の由美理に拾われたのだ。  境遇には随分な差がある。 だが、あまり物事に執着しないおおらかな性質の緑子は、そんなことには頓着していなかった。  おかげで気が強く物事は打算で動くタイプの由美理とは、とても相性がいい。  親友である、と互いに公言して憚らない間柄は、気兼ねのないものだ。 「昨夜、飲みにいったじゃない?あの後、部屋に帰ったら二つ隣の507号室の前に、女が座り込んでてさ……」 「女?」
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