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命の期限
星の海に一筋、流れ星が泳いでいった。
テラスでレンに抱き上げたまま夜空を見ていた私は、くすくす笑いながらつぶやいた。
「……なんか、昔のことを思い出しちゃった。」
「昔?」
レンが、私の顔を覗き込んで不思議そうに聞いてきた。
私はレンの方を見て言った。
「あなたが海の魔女に会いにいこうとした時のこと。」
「……ああ。」
彼は静かに笑って空を見上げた。
私も彼と同じように空を見上げる。
あの頃と変わらない、満天の星空。
「……私ね、人間はいずれ、体は土に、魂は宇宙に還るんだ…って思ってるの。」
私はあの頃とほとんど変わらない姿のレンを見上げて、彼の頬に皺だらけの自分の手を添えた。
「でも私は、体は土に、魂はあなたの側に。……そう願ってるの。」
レンは悲しそうに、私の顔を見つめ、自分の手を私の手の上に重ねた。
何か月か前に、私は医者から余命を聞かされた。
それを伝えた時の、レンの辛そうな表情が忘れられない。
……彼らより短命である人間の私が先に逝くのは決まりきったことだったけれど。
以前、私と彼の見た目が親子ほど離れた頃に、一度だけ尋ねたことがある。
「今まで私は、あなたの側に居られて充分幸せだった。この先は、早く老いていく私ではなく、一族の美しい娘と共に生きた方があなたは幸せでしょう? その方が、一族の皆は喜ぶんじゃないの?」
すると彼は、私をじっと見つめてこう言った。
「では、お前は? お前と同じ時間の流れを持つ人間の男を選んだ方が、お前は幸せになれる。それに、いつまでも変わらない俺といると周りの人間に奇異の目で見られるのではないのか?」
……答えは決まっている。
私は、何があっても、誰になんと思われようと、レンを選ぶ。
彼も同じで、私を選ぶということか。
「俺たちは、悩んで迷って、今があるんだ。……これでいいんだ。」
レンは私を抱きしめながら、そう言った。
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