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道に迷いながらもようやくたどり着いた高原の公園。
これが真夏の夜なら僕ら以外にも星を観にくる人たちもいるんだろうけど、天気はいいとはいえ、季節はもう秋で、しかも平日。
駐車場には僕ら以外停まっていない。
「ごめんね。運転ヘタで、車に酔った?」
「ううん。大丈夫だよ」
彼女は車から降りて大きく伸びをすると、公園を奥へ奥へと進みはじめた。駐車場から続く歩道の先に、木々が途切れた大きな広場がある。
そこが、この辺りでは一番の星空観察のポイントらしい。
どんどん歩いていく有吉さんを必死で追いかけていくと、木々が途切れた瞬間、目の前に星いっぱいの夜空が広がった。
「わあ、すごい。ねえ見て!
あれが天の川だよね」
「ほえー」
久しぶりに見た夜空の神秘的な美しさに、彼女に気の利いた返しもできず、僕は思わず変な声を出してしまった。
僕自身、こうやって夜空を見上げるのは久しぶりだ。
「吉野くん、連れてきてくれて、ありがとうね」
空を見上げて立ち尽くす僕の真正面に立ち、彼女は僕の顔を見上げて囁いた。
「いやいや、そんな…」
近い近い近い!
恥ずかしさと嬉しさで、僕は自分の顔のすぐ真下にある彼女の顔を見ることもできず、上を見上げたまま、曖昧に返した。
「ねっ、あそこ座ろう?」
僕の腕を引く彼女指差す先に、小さな外灯とベンチが一つ。
彼女がそっちに向かったので、僕も空を見上げるのをやめ、後を追った。
「やっぱり10月も近くなると夜は肌寒いね」
そう言いながら彼女は、トートバッグの中から携帯用ボトルを取り出して、蓋を開けた。
二人の周りに、パァッとコーヒーのいい香りが漂う。
蓋をカップにしてコーヒーを注ぐと、彼女はそれを僕に手渡してくれた。
「はい、コーヒー。ブラックだったよね?」
「あ、うん、ああありがとう…。ブラックって知ってたんだ…」
彼女はそれには何も答えず、トートバッグの中からブランケットを取り出すと、自分の膝にかけた。
そしてそのまま、お尻だけで僕の方にジリジリと擦り寄ってくる。
慌てて僕が反対側に後ずさると、ポンポンと僕の膝を叩き、自分の方に近づくよう手招きした。
万が一彼女の太ももに僕の足や手が触れると気まずいので遠慮がちに近寄り、拳ひとつ分間を開けて止まった。
彼女は仕方ないなぁとでも言うかのように“はぁ”とため息をついて苦笑いすると、自分の膝に掛けていたブランケットを、僕の膝にも掛けてくれた。
なんだこれ?
まるで恋人同士みたいじゃないか。
「男の子って、足はそんなに寒くないんだっけ? でもいいでしょ? 二人でくっついてる方があったかいし。女の子は結構寒がりなんだ」
あまりに彼女が近くて、彼女の髪のいい匂いが僕の鼻をくすぐる。
いやいや、これはいけない。
絶対これは何かの罰ゲームだ。
僕を勘違いさせて、サークルのみんなが隠れて見てて、どこかで笑ってるんだ。
多分もうすぐ『ドッキリでした!』って言って出てくるんじゃないか?
そんなことを考えながらも、僕は極度の緊張で、星を見ることも、彼女に話しかけることも出来ず、震えながら目を閉じ、思考をシャットダウンさせた。
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