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「…しのくん? 吉野くん?聞いてる?」
「わあ、ごめんなさいごめんなさい」
急に名前を呼ばれて、僕は慌てて立ち上がった。
いや、急に呼ばれたわけではなくて、彼女はずっと話しかけていたのかもしれないけど。
「もうっ!
吉野くん、私が勇気を出して話したこと、全然聞いてないんだから」
「…ごめんなさい。僕、気持ち悪かったよね。僕如きが有吉さんにこんなに近づくなんて。ちょっと消えてきます…」
「あー!じゃなくて、もうっ!
私の話、やっぱり全然聞いてなかったんだね」
怒って頬を膨らませた彼女は、立ち上がった僕の服の裾を引っ張って無理やりベンチに座らせると、僕の肩を引っ張って、自分の方を無理やり向かせた。
「吉野くん?」
「あああごめんなさいごめんなさい。やっぱりキモいよね。こんな陰気な男って…」
「違うっ!怒ってない…、って、やっぱ私怒ってる!」
「やっぱり…。ごめんなさい。こんな僕が有吉さんを誘うなんて、やっぱり気持ち悪かったよね」
「怒ってるのは、吉野くんのそういうとこ!
私は吉野くんのこと、いっこも気持ちだなんて思ったことないよ。
吉野くん、もっと自信を持ちなよ。
優しくて、気遣いのできる“イイオトコ”なんだから」
「有吉さん、いいよ、そんな気を遣ってくれなくても。
普段も、いつもぼっちの僕に気を使って話しかけてくれるけど、わざわざそんなことしなくてもいいよ。
気を遣われてると思うと、ちょっと悲しくなるから…」
僕は有吉さんに慰められている自分が情けなくなって、突き放したような言葉を返してしまう。
そして、有吉さんが黙って俯いてしまったのに気づき、また自己嫌悪。
言わなきゃいけない時には何も言えないくせに、言わなくていいことを言ってしまう自分が、ほとほと嫌になる。
「…わざわざやってない」
俯いたまま、有吉さんが小さく呟いた。それが聞き取れなくて、僕は“えっ?”と聞き返してしまう。
「私、わざわざ吉野くんに話しかけてる訳じゃないからっ!
吉野くんと話したいから、話しかけてるだけだし!
吉野くん以外の人には、わざわざ話しかけてなんかないし!
キミは優しいくせに、肝心なところは気付いてないし!」
有吉さんは突然大きな声を出して、僕を睨んだ。
僕は、何かまずいことをしたのだろうか。
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