生産性

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五人の就活生たちに、面接官は新たな指令を下した。 「五分間で何か生産してください」 面接官は回答の順番を指定せず、挙手も促さなかった。これまで淀みなく質問にも指令にも答えていた就活生たちはにわかに狼狽えた。 初めに動いたのは真ん中に座る短髪の女就活生だった。女就活生は右隣に座る眼鏡の男就活生を椅子から引き倒し、腰の上に跨った。片手で男就活生のベルトを外そうとし、もう片手で自らの下着を器用に解いた。面接官は質問した。 「何を生産しますか?」 女就活生は答えた。 「新しい命を生産します」 明瞭に答える女就活生の後ろに、ハンサムな男就活生が立った。男就活生は自身のネクタイを解き、それを武器にして女就活生の首を締め上げた。 面接官は質問した。 「何を生産しますか?」 男就活生は言った。 「罪を」 面接官は眉宇を顰めた。 「それは無理がありますね」面接官は拳銃を抜き、男就活生を射殺した。 刹那の沈黙の後、スポーツマン風の男就活生が面接官に飛びかかった。面接官は冷静に拳銃を発泡したが、男就活生はひらりと躱した。見事な身のこなしようだった。 面接官は質問した。 「何を生産しますか?」 男就活生は言った。 「殺人犯のあなたをこの世から排除します。マイナスをゼロにすることによって生産とします」 「言うは易しです。実行してください」 面接官はまた発砲した。男就活生は避けた。流れ弾が、眼鏡の男就活生の眉間を貫いた。弾数はあと三発だった。 最後の一人、髪を結えた女就活生は呆然としていた。 床にはネクタイで絞殺された女就活生と、射殺された男就活生二人が横たわっている。 長机の上では体格の良い男就活生と、面接官が戦闘を繰り広げている。 彼女はただの大学生だった。なんとなく大学に入った。就活も周囲に流されるまま始めた。給与と福利厚生だけを見て、面接にやって来た。この会社が何をする会社なのかすら、いまいち理解していなかった。 いつもいつも夏が終われば秋になるように、昼が夜になるように生きてきた。夢も希望も野望もなかった。ここに来て彼女は、自分には何も信念がないことに絶望した。 発砲音が二発した。体格の良い男就活生就活生が、胸に二つ穴を開けて倒れた。部屋には硝煙の臭いが立ち込めていた。 面接官は質問した。 「何を生産しますか?」 拳銃の弾はあと一発残っていた。 髪を結えた女就活生は何も答えることが出来なかった。やがて時間制限となった。 「本日の面接は以上です。合否は追って連絡いたします」
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