あなたの答え

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「もしもし、陽子ちゃん?あたし。紗江」 「あ、紗江ちゃん?久しぶり。どうしたの。こんな時間に」 「うん、何となく声が聞きたくなっちゃって、へへ」 「そう言えばご無沙汰だね。最後に会ってからもう半年くらいかな。元気?」 「うん、おかげさまで元気よ。そっちはどう?」 「まあ、ぼちぼちって感じ。特に変わりはないけど」 「そう、一応は元気みたいね。良かった。ところで、ちょっと唐突な質問なんだけどさ。話聞いてくれる?」 「なに?」 「あのさ、“あなたの寿命はあと5分です”って言われたら、陽子ならどうする?」 「どうするって、そりゃ、びっくりするわよ」 「……まあ、確かにびっくりするよね、普通。いや、どうするってそういう意味じゃなくて、何をするかって意味なんだけど」 「わかってるけど、あと5分なんでしょう?どうするったって、実際、何も出来ないんじゃない?結局、びっくりして、どうしようってうろたえてる間に終わっちゃうんじゃない?」 「まあ、確かに5分というのは短いけどさ。でも全く何にも出来ないこともないんじゃない?思い切り急いでやれば、5分で出来る事も、いくつかあるんじゃないかなと思うのよ」 「うーん……海外旅行なんか論外だし……死ぬ前に一回行ってみたかった銀座の高級な寿司屋があるけど、5分じゃ外出の支度も出来やしない……あと、ロマネコンティって一度飲んでみたかったけど、ワインショップに強盗に入るにしても、やっぱり5分以上かかるし……もうちょっと時間があったら、職場のパワハラ上司をぶっ殺しに行くんだけど、会社まで1時間かかるしなあ……」 「……あの、何だか物騒な話になってますけど。もっと、常識的っていうか、穏やかに考えた方が、現実的な答えが出るんじゃない?」 「だって、あと5分で死ぬって言われたんでしょ?そんな状況で穏やかでいられるわけないじゃん。私はそんなに人間出来てないよ。世の中の大半の人だって、多分そうでしょう」 「まあ、確かにそうかもね。今、この状況であれこれ考えちゃうのも、所詮仮定の話だからなんでしょうね。“あなたの寿命はあと5分です”と言われたら、という仮定の上に、どうすべきかを想像してるわけで、結局頭で考えてるから、余計にまとまらないのかもしれない。本当にリアルでそんな状況になったら、その場で意外と自然に体や口が動くのかもね。それが質問への答え、“正解”ってことになるのかな」 「自然と体や口が動くねえ……まあ、“正解“なんてものがこの場合あるのかな。正解も不正解もないと思うけど」 「まあ、それはそうね。とにかく、難しく考え込まないで、ふっと思いついたようなものが、結局はその人の本当の答えなのかもね」 「……親しい人にお別れを言うとか」 「ああ、それなら5分で電話くらいできるよね。それ、いいかも。でも、いきなりお別れを言われても相手の方も面食らうかもしれないから、どうするかなあ……」 「じゃあ、とにかく大事な人や仲の良い人と話をする。相手を心配させないように、他愛も無い話をして、こっちとしては最後に声が聞けて良かったと思って旅立つ……なんてのも、アリかもね」 「なるほど、それいいよね。うん、それいいよ。親しい人達、要は仲の良い家族や友人なんかと話をする、か。なるほど。それが陽子の答えってわけね」 「うん、まあ……答えって言うほど改まったものなの?」 「ああ、いやいや、何でもないの……ところで、話替わるけどさ。陽子って都市伝説に興味ある?」 「都市伝説?まあ、興味無いわけじゃないけどさ。あの、明日も仕事だから、もし長話になるなら、今度会った時にでもゆっくり話さない?」 「待って!もう少しだから!あのね、“あなたの答え”っていう都市伝説なんだけどさ。どんな話かっていうと、まず最初に“あなたの寿命はあと5分ですと言われたら、何をしますか?”という質問をされるわけ」 「……うん?……」 「実は、これが危険な呪いの始まりなのよ。もしその人が5分以内に、自分が答えた内容と同じ事を現実に行ってしまうと、質問に答えた時から5分後にその人は死んでしまうの」 「なんで?」 「その人は、あと5分で死ぬことを前提とした行動を現実に行ったことになる。つまり、自分の寿命があと5分で終わるという状況を自ら認めたことになってしまうからよ」 「そんな、滅茶苦茶な」 「あはは、そこは都市伝説だからね。まあ、普通はあと5分で死ぬって言われたら自分がどうするかなんて、急には思いつかないか、さもなきゃ、さっきの陽子みたいに、誰かを殺すとか、寧ろ突拍子も無いことを言い出すとか……まあ、現実的じゃないことを言う人が多いのよ。だから、普通の人は何も起きないわけ。だけど、自分がこうするだろうと言った行動を、5分以内に自分でも気付かないうちに実行してしまうことも、あり得るわけよ」 「…………」 「ねえ、だから、あたしが巧みにあんたを誘導したのよ。気付かなかった?もう少し穏やかに、とか常識的に、とか“親しい人と話をする”という回答を引き出すためにね。そして、今まさにあんたは、私という友人と話している。自分の答えを実現してしまったのよ。というわけであんたの寿命はあと、1、2分てとこね。お気の毒様」 「……紗江ちゃん、あんた、私に呪いがかかるように仕向けたの?……何故……?」 「昔からあんたのこと嫌いだった。あたしのこと、小馬鹿にしてたくせに、外面だけは仲良さそうにしてさ。ちゃんと、気付いてたのよ。本当、あんたって陰険で最低な女ね。いつか仕返ししてやろうと思ってた」 「…………」 「さあ、もう少しで5分が過ぎるわ。最後に会って、その顔が恐怖に歪んでるのを見たかったけど、さすがにそれは無理よね。残念だけど。アハハハハハハ」 「…………残念なのはあんたの方よ」 「なによ?」 「呪いなんて馬鹿げた話を真面目にしてるあんたも相当イタいけど、仮に本当だったとしても呪いは失敗よ」 「なんでよ?」 「だって、あんたは私にとって、全然"親しい人"じゃないもん」 「……えっ?……」 「あんた、ハブられてるのに全然気がついてなかったのね。あんたに最後に会ったのは半年前のクラス会だけど、彩香ちゃんや友紀恵ちゃんなんかとは今でも毎月会って、ご飯食べたりカラオケ行ったりしてるのよ。この間の連休には旅行も行ったのよ」 「……そんな……」 「この際だからはっきり言うけどさ。みんなずっと前から、あんたは自分の話しかしないからウザいって言ってたのよ。卒業したら、これであんたと縁切りできたって清々してたの。まあクラス会には、顔出すけどさ。他のみんなに会いたいからね」 「彩香や友紀恵まで……あたしを……」 「だから、あたしに呪いをかけたつもりだったら、残念ながら失敗ね。ところで、呪いって、失敗するとどうなるか知ってる?そう、かけた本人に帰ってくるのよ……さて、今から死ぬのはどっちかしら」 「……なんで……畜生!ぐっ……」 「アハハハハ、どう、悔しい?もしもし?紗江?どうしたの?具合悪い?もしもし?聞こえてる?もしもーし?ねえ、大丈夫?返事ぐらいしなよ。アハハハハハハ……キャハハハハハハ……」 [了]
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