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「この男性が代議士の佐伯博則、こっちの女性がモデルの工藤美保」
パーティー会場に入る前に、誰にも見られないように非常階段へ移動し、劉生に今回の作戦について説明する。
スマホの画面で写真を見せながら、ターゲットを共有した。
「この2人の不倫調査が今夜の仕事。恐らくこのパーティーの後にホテルで落ち合うはずだから、そこを写真におさめたいの」
「先生、いつのまに探偵みたいなこと始めてたんだね」
「みたいなこと、じゃなくて探偵事務所で働いてるの。ていうか、いいの?あなたみたいな大物がパーティーを抜け出して」
「大丈夫。今はこっちのほうが大事。先生の為なら何でも協力するよ」
にっこり微笑む劉生に胡散臭さしか感じられず、うろんな目で睨む。
「あなたが大企業の御曹司だったなんて知らなかった。ずいぶん変わっちゃったのね、神崎くん」
「苗字は変わったから、神崎くんはやめてよ」
「……今は蒼馬姓だったね」
「それも嫌だ。下の名前で、劉生って呼んで?」
「調子に乗らないで」
「優しくないなあ。まあいいや、それは次の機会に」
くすくす笑いながら嬉しそうにするこの男が何を考えているのかさっぱりわからない。
今更近づく理由は何?
面白そうだから声をかけた?
私が憎くて、許せなくて仕返しを…?
どう考えてもマイナスな理由しか浮かばなくて、頭が痛くなってくる。
「じゃあ行こうか」
そう言って、劉生は非常階段のドアを開けた。
「行こうかって…ちょっと待って。あなたと一緒に動いたら目立つじゃない」
「パーティー会場だと目立つから、佐伯が泊まる予定の部屋を先回りしよう」
「え?いや、そこまでの情報は…」
劉生は足を止めて振り返り、にっこりと笑う。
「調べた。佐伯代議士が秘書名義でとってる部屋がこの階下にある」
「調べたって、どうやって?」
それには答えず、微笑み返されるだけだった。
歩き出す劉生に黙ってついていくしかない。
『権力者ってのはすごいねえ。この案件、一気に楽な仕事になったな』
インカムから直親の声がした。
今は仕事を成功させることを考えなければ。
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