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最上級のスイートルーム。
何十畳あるんだというぐらい広い広い室内は、奥の壁一面が窓になっていて美しい東京の夜景が大きく目に入って来る。
「な…にこの広い部屋。ここを1人で!?」
「そうだよ」
(くっ金持ちめ…!)
庶民には到底泊まれることがない上流階級用の部屋。
アメニティとかブランドモノなんだろうな、ベッドもふっかふかなんだろうな。とはしゃいでしまいそうな気持ちを玲はぐっとおさえる。
これ以上は目の毒だ。早くカメラの中身を確認してとっとと帰ろう。
確認しようとカメラを起動した腕をぐいっと引っ張られた。
「部屋、案内するよ」
「え、はあ?」
「せっかく来たんだし。よかったらアメニティとか全部持って帰って」
「え…っ!」
つい嬉しそうな声を出してしまい、慌てて口を噤んだ。
そのようすをクスクスと笑われる。全部見透かされてそうで恥ずかしい。
「今日のお詫びがしたいんだ」
「べ、別にお詫びなんて。結果的に助かったのは事実だし」
「強引にごめんね。久々に会えたから嬉しかったんだ、俺。でも嫌だよね、これ以上は…」
「それは…!」
劉生の切なげな顔に、気持ちが揺さぶられる。どれが本当の彼なのだろう。
急なしおらしい態度に、こちらが意地悪をしているような気持ちになってしまう。
「少しだけなら…」
「ありがとう。嬉しいよ、先生」
部屋の奥に通されると、洗練されたデザインの広々した空間にキングサイズのベッドが現れた。
寝ながらに美しい夜景も展望できる贅沢すぎる空間に、ザ・庶民の玲は引いてしまうほどだった。
「なんかもう、すごすぎて…一泊いくらなのここ?このベッドに一人で寝るの、私だったら落ち着かないかも」
「一人じゃないよ」
「へ?」
ドン!と背中を押され、次の瞬間、ふっかふかの感触が玲の体を包んでいた。
どでかいベッドに正面からダイブしている。
一瞬何が起きたのかわからず。わあ、想像以上のふかふかさ、さすが最高級…などの感想が先に頭に浮かんでしまって、はっとした。
「ちょ…!何!?」
体を起こそうと、うつ伏せの状態から前を向くと目の前に劉生の顔があった。
劉生に押し倒されている。
何?この状況は?
「ねえ、さっき私のこと自意識過剰って言ったわよね?これ…何?」
「先生って頭いいのにバカだよね」
「なっ…」
体を起こしたくて、ぐぐ…!と力を入れるがビクともしない。
気づくと両腕は押さえつけられ、足にも劉生の体重がかかっている。
「やめて、何する気!?」
「なにって…先生が想像してるとおりのコト」
劉生はさっきまでの殊勝な態度と一変して、また悪魔のような笑みを向けていた。
一瞬でもこの男を信用した自分を盛大に殴りつけたい。
そう思っても、もはや遅すぎるのは明白だった。
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