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「んんっ…」
ねじ伏せるような行為ではなく、玲の気持ちいい場所を探るようなキスに勝手に体が反応してしまう。
嫌なら噛みつけばいいのに、なりふり構わず暴れればいいのに、それをしたら彼を深く傷つけそうでできなかった。
やっと離れた唇に、息が乱れた。
「先生、俺のキス…よかった?」
「なに言って…!よくなんか…」
「でも先生、やらしい顔になってるよ」
「っ……!!」
真っ赤になりながらも、これ以上流されてはいけないと身をよじる。
が、いつのまにかブラウスのボタンを半分以上外されていた。
下着が見えた状態になっていて、さあっと青ざめる。
「先生…」
乱れた服の玲を見つめる劉生の瞳は、明らかに欲情を滲ませていた。
「ダメ!お願い。これ以上はやめて…ほんとにだめ。今なら戻れるから」
「嫌だ。やめたくない。先生好き…お願い」
これ以上は本当にまずい。必死に劉生の体を押して抵抗していると、教室のドアが開く音がした。
「何をやってる!!」
入ってきたのは担任教師だった。
いい訳のしようもない状況。頭が真っ白になる。
ああ、終わった――。
そこからのことは、あまり覚えていない。
記憶に残っているのは、玲が劉生を誘った淫行教師ということになっていたこと。それはまあ、その通りだと思う。優等生を特別扱いして誑かしたのは紛れもなく玲だった。
それから、劉生の保護者から二度と会わないよう誓約書にサインをさせられ、表向きは自主退職ということで、早々に学校を辞めさせられた。
本来懲戒免職ぐらいの大事件だと思うが、劉生の保護者も学校も問題にしたくなかったということでこの処分に落ち着いた。
辞める時に職員室で女性教師陣からは非常に冷たい目でヒソヒソ噂され、男性教師陣からはひどいセクハラめいた言葉もぶつけられた気がするが、もう思い出さないこととする。
翌日から学校へ行くことを禁止されたので。劉生とはあの時から会っていない。
学校を辞めて、玲は大いに腐った。
自分の関わり方が劉生をおかしくさせてしまった。
彼は家のことで苦しんでいたのに、結局何の力にもなれなかった。
情けなくて、恥ずかしくて、死んでしまいたかった。
だって、キスを拒めなかったのは彼に惹かれている自分が心の奥底にいたからだ。自分を慕ってくれる劉生を可愛いと思ってしまったから…
ああ、本当にバカだ―――。
実家でも腫れ物に触るような存在になり、2年ほど腐って引きこもっていた玲を無理やり引っ張り出したのは幼馴染の佐々木直親だった。
探偵事務所を細々とやっている変わり者の幼馴染は、玲に無理やり仕事を手伝わせた。
それからは直親の後をついて回って浮気現場を押さえたり、草むらの中迷い犬を追いかけまわされたり、泥臭い仕事に付き合わされていた。とんでもなくブラックな職場で死ぬほど忙しかったけれど、仕事の間は色んなことを忘れていられた。
きつい仕事をこなすことで、罰を受けているような気持ちもあったのかもしれない。
そしてあの事件から丸5年が経って、ようやくもう忘れようと思えていた時に、まさかトラウマに再会してしまうとは――。
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