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Phrase:7「適正試験」
レニーと勉強を始める事しばし。
いよいよパイロット適正試験当日が訪れた。
パイロット適正試験の日程は5日間あり、初日は身体検査のみ。
2日目は朝から晩まで学科試験で、最終日には体力測定が控えている。
昨日身体検査を済ませたから今日は実質2日目。けれどこっからが本番だ。
セントラルの高校生全員が最寄りの講堂に集められ、オール記述式の試験が始まる。
せめてマークシートとかにならんもんですか。まあ、受かる気しないから、どっちでも一緒なんだけど。
「うわー、セントラルってこんなに高校生いたんだー」
黒集りの人混み。
ひしめき合うほどに集められた学生の群れを見て思わず零すと、レニーが呆れた様に苦笑いした。
「当たり前じゃん。ヴォルトノットは普通高校より工業高校の数の方が多いんだから」
「これ、全部学生?」
「だと思うよ?」
「うへー」
つまり、これ全部パイロット狙いの学生さんなのか。
なんかちょっと気後れするなぁ。
「今日から3日間は丸々テストかぁ」
正に灰色の高校生活。
ちょっと鬱になって溜息をつくと隣でレニーがあっけらかんと笑った。
「期末考査も似たようなもんじゃない」
「そりゃそうだけど……学校のテストは基本4限で終わるじゃん。なのにこっちは……夜10時までとかゾッとするわ!」
「仕方ない仕方ない。天下のパイロット様適正試験だもん」
「やーだーよーう……帰っちゃおうかな」
「始まる前から何言ってんの。折角勉強したのに。あ、帰ったら絶交ね?」
「マジか!?」
「マジー」
「あたしらの友情とは!?」
「親友見捨てて試験サボる時点で非成立だから」
「ぐは!ならしゃーないかぁ」
レニーの脅しに頭を掻きむしりつつ、あたしは覚悟を決めた。
「で、初日の学科なんだっけ?」
尋ねるとレニーは、たはぁーと長い溜息をつき
「理系科目全般。明日が文系で、3日目が時事問題と一般教養。ミュシャ、時間割ちゃんと確認しなよー」
「いいの!」
なら初日だけだな、あたしが輝けるかもしれないのは。しかも局所的に。
今後の仕事の為にも一部学科と実技だけでも優良レベルの判定を獲得しないと。と、やる気を呼び起こしたあたしに対して、レニーはというと気力を削ぐ一言をズバリ。
「最終日は体力測定だよ」
「げ、なら水泳あるよね」
「あるねえ。ほら、私たちは中央競技場の第2プールだって。100mのタイムトライアルらしいよ。その前に第1グラウンドで1000m走と50m走があるけど」
「ぐは、行きたくねー……てか何故に陸上競技と水泳を一緒の日にやるかな」
「そこも体力測定の一環じゃない?持久力の判定に使うんだよ、きっと」
「どんだけスパルタなんだ、DIVA」
とは言うものの、そもそもがエリート職の適正試験なので普通のものより過酷で然り。
凡人をお断り職の適正を見るものなのだから、そりゃ難しくてスパルタだろうとも。
「まあまあ、それよりも早く席に着いて勉強しないと!」
レニーが腕を引っ張った。
どうやらギリギリまで悪足掻きをするつもりみたい。
「今更、参考書や単語帳開いた所で意味なーー」
「あります!ミュシャ、早く!」
「わかった、わかったってばぁー」
ズルズルと引き摺られながら、あたしは試験会場に辿り着く。
レニーとはクラスが違うので席こそ近くはないが、会場がすり鉢状の講堂であるため、あたしの遥か前方にその姿を確認出来る。
テストまでの時間お互い席に座って教材を見直す。開始直前、教材を片付ける様に試験監督に言われ片付けているとレニーが一瞬振り返り小さくガッツポーズをした。
頑張ろう!と、そう言っているのだろう。
あたしが頷くとレニーは前を向く。
直後、専用のホロ画面が各学生の手元にポップアップされる。
これが問題用紙兼解答用紙。
覗き見出来ない指向性ホロ画面だ。
「ではこれより、アヴェンシア職技連合セイレーンパイロット適正試験を開始します」
試験監督の言葉で、場に静寂と緊張感が張り詰める。
ちょっと高校受験の時の雰囲気に似てる。
それよりもっとピリピリしてるけど。
深呼吸をして心を落ち着ける。
「はじめ」
開始の合図と共に学生たちが一斉にホログラム・コンソールに手を掛けた。
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