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Phrase:1「ヴォルトノット」
アヴェンシア惑星帯
第1惑星【パーシヴァル】
アヴェンシア職技連合:中立国
第2人工惑星「ヴォルトノット」
惑星の外から見たら砂色に見える超きったなくて、パッと見めっちゃ荒廃してそうな色味のヤバい星。
そこがあたしの故郷……人の手によって作られた人工惑星型小規模コロニー・ヴォルトノットだ。
見た目は残念。とはいえ別にうちのコロニーが特別荒廃してるって訳でもない。
コロニー表面、つまりあたしたちが住んでる居住空間の上空2000mくらいの位置に「サロニヤス粒子」と呼ばれるスモッグが滞留しているだけで、その下まで来れば至って普通の人工惑星だったりするんだよね。
サロニヤス粒子はコロニー表面の大気を生成した時の残りカスと、技術特区の工場群から排出された化学物質を併せて作られたもので、外部からの侵攻勢力への目くらましと通信妨害機能を有した特殊なもの。
これをして、あたしたちヴォルトノットの人間は故郷を守る「砂の壁」とも呼んでいる。
まあ、あたしは産まれてこの方、修学旅行以外で外宇宙に出た事ないから、下から眺めるのがほとんどなんだけどさ。
で、あたしの故郷の話し。
ヴォルトノットがあるアヴェンシア惑星帯には全部で3つの惑星があって全てが横一直線に並んる。
そのうち一番大きい第1惑星パーシヴァル。
第1惑星主星パーシヴァル。
第2惑星レプラカーン。
第3惑星トリスタン。
有人惑星と呼べるのはパーシヴァルとトリスタンだけで、レプラカーンは主に資源採掘場と化しており工場群や加工施設があるくらい。現地に住んでいるのは単身赴任の技術者や採掘者、運送の作業員ばかりで民間人はいない。
その為、レプラカーンやその間の中継地及び居住地として小規模な人工惑星型居住区、コロニーが作られたらしい。それがヴォルトノットを初めとした8つのコロニーたち。
惑星3つとその間にあるコロニーが8つ。
それを全部合わせて、アヴェンシア惑星帯の中立組織【職技連合】となる。
あ。
はじめまして、だよね?
あたしはヴォルトノットの技術者で、友達からはミュシャって呼ばれてる。
あだ名だけど。
16歳のピッチピチ……かどうかは知らないけど、一応高校生の区分だよ。ま、去年くらいから事情があって学校にはあんま行ってないんだけさ。
なんでかってーと
「ミュシャーー!!」
あたしが店の前に出した椅子に座りホログラム投影された青空をボーッと眺めていると、通りの向こうから明るい声がした。
「レニー!」
親友のレニーだ。
レニー・マクブライド。
サラサラとした綺麗なブロンドに青い目、真っ白な肌。典型的な美少女が子犬の様に愛嬌のある仕草でピョンピョンと跳ねながら、こちらに手を振っていた。
めっちゃ可愛い。
なにあの可愛いの。
しまった、あたしの親友だった。
ふっ、世の男子どもよ、羨ましいでしょ。
レニーがあそこまでぴょんぴょんするの、あたしの前だけなんだから。
ざまあみろ……って言っても誰もいないし見てもいないから考えるだけバカらしいんだけどさ。
ま、それはさて置き。
レニーはあたしの目から見ても文句なしの美少女である。
一方で、あたしなんて髪はバサバサの赤錆色。目は赤茶けた銅色だし、肌なんてガッツリ日焼けしてておまけに日頃の仕事でついた傷だらけ。
だからってレニーを妬む事はない。
レニーはレニー、あたしはあたし。
労働女子は労働女子なりの魅力がきっとどこかにあるに違いない。
はしゃいだ様子の親友は信号が変わるとそのまま凄い勢いで走って来る。
「ねえねえ、聞いた!?セイレーンのパイロット適正試験の話し!」
「は?」
急に意味不明な事を興奮気味に捲し立てられ、あたしは盛大に顔を顰める。
「なにそれ、パイロット適正試験って」
「え!?知らないの!?今、学校で超ウワサになってるのに!」
「知らない」
そもそもあたし、最近学校行ってないもん。
家がご近所で幼稚園からずーっと一緒の大親友レニーは、そこで「あ、そっか!」と軽く自分の頭を小突く。
品の良い容姿なのに仕草はそこら辺の女子学生そのもの。だからあたしとも仲良くやれてるんだと思う。
少しも気取ったとこがない。
レニーの両親はヴォルトノットでは珍しい音楽関係の仕事についていて、テレビにも良く出る有名人。つまり彼女はお金持ちのお嬢さんなのである。
三人姉妹の末っ子で、上のお姉さんはジャーナリストとして銀河中を飛び回り活躍中。
下のお姉さんはヴォルトノットの音楽番組のプロデューサー。
正に絵に描いた様なハイソ家庭。
でもさ、そんな家に生まれたお嬢様が学校に行かなくなった不良学生相手に、今でもこうして毎日来てくれるんだから、変わってる。
奇特な子だよ、ほんと。
こっちは嬉しいけどさ。
けど、そこはそれ。
あたしがノリ悪く返事をするとレニーはソワソワと落ち着きなく手を擦り合わせながら目を輝かせ
「DIVAがね、歌姫の補佐をするパイロットを大々的に募集するんだって!」
「ああー……あれか、噂の新型セイレーン」
「そう!」
【セイレーン】とは全銀河でも独立した中立組織DIVAが保有する全領域迎撃可変型兵器の総称で、超能力みたいなエグい能力を持つスペシャル戦闘機体の事。
動力にはDIVA所属の《歌姫》と呼ばれる特異体質者が歌唱により生み出すエネルギー「聖唱」が使用されている。
と、表向きは思われているんだけれども、実際の所はちょっと異なる。
一般には余り知られていないんだけど、セイレーンのエンジンとなる部分には音韻石と呼ばれる稀少鉱物が使われていて、この鉱石はある一定の周波数、音域の音にのみ反応し、共鳴中は膨大なエネルギーを生み出すとされている。
膨大なエネルギーって言われてもあんまピンと来ないかもしんないんだけど、人の頭くらいの大きさの音韻石を共鳴させるだけで戦艦主砲クラスのエネルギーを生み出す事が出来る、と言われれば、その膨大さがお分かり頂けるだろう。
勿論、正式に計測された訳じゃないらしいんだけど、一部学会誌には掲載されているので、その有用性たるや凄まじい。
ただこの音韻石には欠点もある。
その欠点とは音韻石は自身からも特殊な波長を発しているらしく、それが日々刻刻と変わり、常時供給エネルギーとしての運用が非常に難しいという点。
そして共鳴している間しかエネルギーを発しないという点だ。
しかも通常の計測機械では独特の変調波形を読み取る事が難しいのだそうだ。
で、その音韻石の波長を先天的に拾う事の出来る“絶対音感”という特異体質者がディーヴァと呼ばれる存在なワケね。
割合的に10億人に1人とされる特異体質者は、この世界に存在する数が少なすぎるが故に帝国にも連邦にも手厚く保護されていて、本人たちが望めばかなりの高待遇で仕官出来るのだとか。
正に、生まれながらのエリート……ってか、寧ろ保護動物とか天然記念物ってやつ。
帝国、連邦双方にも片手で足りる程の歌姫が仕官しているけれど、それは極稀な例で基本的にはDIVAと呼ばれる機関に所属し、人類の脅威と戦う事を仕事にしている。
人類の脅威……それはこうした平和な日々の中にも確かに存在していて、奴らは“ガプター”と呼ばれている。
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