Phrase:3「学生」

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Phrase:3「学生」

「でさ、パイロット適正試験」 「あーうん。あれでしょ?歌姫さんのお抱え運転手的なやつ」 めっちゃ給料いいらしいじゃん、そう言うとレニーは呆れた様に溜息をつき 「もう、ミュシャったら。給料よりもレア度!ディーヴァと一緒に仕事出来るとか神がかってない!?」 徐々にテンションをあげて前のめりになって来る。 「あーはいはい、ディーヴァね、ディーヴァ」 「なによー、その投げやりな言い方は。ミュシャは興味ないの?」 「んー、ごめん。ない」 「うわ」 レニーには悪いけどキッパリと言い切った。 音韻石の波長を読み、セイレーンを動かす事の出来る特異体質者が中立組織DIVAに所属しているのは先にも言った通りだけど、この人たちって顔出しというか……職業柄歌う所為なのか、ほぼ全員が歌手として活動している。 まあセイレーンは本体だけでも維持費もかかるし、付随する設備や消耗品(弾薬や装甲など)も馬鹿にならない値段になる。 その他にも後輩ディーヴァの育成やら職員の給料やらにもお金がかかるからパトロン集めの為の広報活動の一環なんだろうけど、あたしは余り興味ない。 歌姫なんて呼ばれてるけど実際には男性のディーヴァもいて、そちらの方は巷では「歌王子」とかいう文字を当てるらしい。 因みレニーも大好きなロック歌手もディーヴァ(男性)である。 「もしも、もしもよ?試験に受かってパイロット候補生に選ばれたら、直接会えるかも知れないじゃない!」 夢見る乙女の様に頬に手をあて幸せそうな表情をする親友に、悪いとは思いつつもあたしは尋ねた。 「ああ、あのイケメンの。……何だっけ?」 「ジュリアス!ジュリアス・シェイド!!」 「あー、そうそう、それ」 「それ言うな!全宇宙の最高のロック・キング!超ホットでクールな王子様なんだから!!」 「いや……」 キングなのか王子なのかどっちだよ。 ホットとクールって対局の言葉じゃね? ま、どっちでもいいけど。 ロック苦手だし、あたし。 うるさいから。 聞いてると頭ガンガンしてくるんだよね。 さて。あたしの記憶が確かならジュリアスって黒髪でオッドアイのイケメンだった様に思う。目の色は……赤と黒だっけ?青と黒だっけ?忘れちゃったけど、どちらにせよカラコンだと思われる。 ただファンの間では「あれは自前の奇跡の瞳」らしく、「んな訳あるかい」と反論しようものなら大喧嘩になるので言わない方が懸命だ。 あたしも前にそれやってレニーに1週間口を利いて貰えなかった事がある。 王子ファン怖い。 「ジュリアス・シェイド……ああ、一度でいいから生で会ってみたーい!!」 「好きだねー、レニーも」 「大好き!!」 当たり障りなく、やんわり微笑むと即答された。 見ての通り、レニーはジュリアス・シェイドの熱狂的なファンだ。 ライブが開催されると聞けば東奔西走なんのその。この間なんてチケットが当たったとかで、学校休んでまでパーシヴァルへ遠征してたくらいだ。 アヴェンシアの主星パーシヴァルにある最大級のイベント・ドームで行われたライブは機材席すら追加で解放したものの超満員。 生で見れなかった人たちはコロニーにあるシアターでのライブ・ビューイング(こちらも抽選)に参加したんだとか。 テレビCMもめっちゃやってて、モールやレコードショップでもキャンペーンしてたっけか。 特別番組まで組まれてて、お陰様であたしが毎週楽しみにしていた番組が急遽差し替えになり(『銀河技術探求~匠の世界』第1162回「絶巧・トランジスタ職人」)が見れず、人知れず涙したのは言うまでもない。 おのれジュリアス、許すまじ。 会う事なんぞ一生ないとは思うけれど、もしどっかですれ違ったら文句の1つも言ってやる。いやセレブだし、その辺歩いてるわけないか。 顔もうろ覚えだし、すれ違ってもあたしは気付かない自信がある。 ま、それは置いといて。 「レア度って言うけどさぁ、抽選で募集できる芸能系のアルバイトじゃないんだから。それに、神がかる前に受かったら命懸けじゃん」 「でもエリート職だよ?職技連合の技術者から募集されるセイレーンのパイロットかぁ……選ばれたりしたら凄いよね!急な募集でびっくりしたけど」 「ほんとそれな。急すぎ。学校で言われたの?」 「うん。先生がプリント配ってて、うちの学校は全員参加だって!はい、これミュシャの分!」 「いらなーい。あたし、もう学校行ってないもーん」 「ミュシャのはサボりでしょ!ちゃーんと在籍はしてるんだよ?諦めて受け取りたまえー」 「げー……まだ退学になってないの?今行っても出席日数足りなくて留年確定なんだけどなぁ」 「自業自得ですー。はい、プリント。ちゃんと読む!」 そう言ってレニーは学校で貰ったらしいプリントをカバンから取り出し押し付けた。 渋々受け取り目を通す。 「へー、工業高校生は強制参加かー」 「その代わり期末考査なしだって」 「そりゃそうか。こっちの方が要求レベルも重要度も高いし。しかもパイロット不足は切実だもんね。新型セイレーン、タンデム機らしいし」 「あ、それそれ!私、そこんとこを聞きに来たの」 呟くとレニーが手を挙げた。 まるで授業中に質問する生徒みたいに。 あたしは目をぱちくりとして首を傾げた。
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