Phrase:5「親友の誘い」

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Phrase:5「親友の誘い」

「デュアライズ・システム搭載の新型セイレーンの導入決定は多分、ディーヴァが動力供給と音韻石兵器(ソニタイド・ウェポン)の操作に集中出来る様に操縦をパイロットに依存する形に戻したってだけだと思う」 結論を述べるとレニーも納得した様にうんうんと頷いた。けれど暫くすると、また「うん?」と首を捻る。 「そっか。確かにその方が効率いいかも……あれ?でもそれならパイロットって沢山居た方がいいんじゃないの?なんでアヴェンシアに限定したんだろ?」 「んー、そこはほれ。大人の事情も絡んでんじゃない?そもそもさ、機体作成を産業の軸とするのはヴォルトノットの技術者だし」 セイレーンには高度なシステムや最新機材が多数搭載されており、その扱いを熟知しているのはその開発作成を一手に担っているヴォルトノットを始めとしたアヴェンシア職技連合の技術者と、現在工業学校などに通っている技術者予備軍(学生)たちだ。 急いで招聘したいなら基礎知識を予め習得している人材から募った方が理想的。それに帝国や連邦の軍人からパイロットを募集するリスクも大きい。 「大人の事情……ああ、そっか。アヴェンシアはDIVAと同じく中立だし。帝国とか連邦に呼び掛けると利権絡みで面倒だもんね。組むならそっちの方がいいか」 察したレニーが納得した様子で呟く。 「それに何か不具合があった時、技術者なら原因究明も楽だしさ」 「なら今回の募集はお試しみたいなものなのかもね」 「その可能性はある」 「そっかぁ……じゃあ、私が受けても倍率的に難しそうだなぁ」 「え、何で?」 寧ろ、あたしたちアヴェンシア職技連合の住民じゃなきゃ無理じゃん。そう思うあたしを他所にレニーは難しい顔をして 「だって私、技術者じゃないもん」 と、言い放った。 「を……」 をい。 その言葉に思わず絶句。 「いや、あんたさ、フツーに工業高校生じゃん。ならセイレーンの操縦は操作体験とか操舵法、第1機材整備とかの授業でやってんじゃないの?」 「そうだけど……私、進学コースだもん。工業科や情報処理科とはカリキュラム違うし」 「あ、そっか。レニーは大学行くんだっけ」 「うん、そのつもり」 「技術系じゃないの?」 「違うよ、マスメディア」 「あー、そういや小学生の頃からアナウンサーになりたいって言ってたもんね」 「そうそう」 「んじゃ、何でパイロット適正試験受けんのよ?」 夢と現実が乖離し過ぎじゃないか、とツッコむと彼女はニコッと笑いながら 「話しのネタになりそうだし?」 「をい」 「だってさ、パイロット適正試験が養成機関外の一般公募になるだなんて10年振りの珍事じゃない?なら、このタイミングで受けておけば、後々絶対ネタになると思う!」 「そゆ問題じゃねーし。動機不純すぎ」 「うるさいなー。てかミュシャ、口悪すぎー。女の子なんだからもう少し繊細にさ、可愛く喋りなよー。カレシ出来ないよ?」 「うっさい、それこそ余計なお世話だわ」 カレシとかいらんし。 そもそもあたしの場合、このジャンク屋をやりつつ自分の生活を回すのだけで精一杯。 他に関わる余裕はない。 じーちゃんの店を潰す訳にもいかないし。 今となってはあたしの唯一の、家族との思い出なんだ。この店は。 学校を半ばフェードアウトしたのもそれが理由。 別に差別とかイジメがあった訳じゃない。 単純に面倒だったから行かなくなっただけ。 奨学金受けられるほど頭も良く無かったしね。 技術系科目とか趣味でいじってる機材に必要な計算とかは出来るんだけど……国語とか古典とか、仕事に関係ない歴史とか、政治経済とかはサッパリ。 運動神経も走るのは人並み。球技はダメダメだし、水泳に至っては更に壊滅的で中学の頃、腰くらいの深さしかない子供用プールでも器用に溺れて見せた経験がある。 水泳の授業って何であるんだろ。 いらなくない?いや、そもそも水泳に限らず学校って無駄な科目多すぎなんだよ。 なら、楽しくもない授業をダラダラ受けて学費無駄にするよりは冴えないジャンク屋でも好きな事してコツコツ生活してく方が建設的でしょ? 「しかし……そっかー。レニー、適正試験受けるんだー」 「うん」 「頑張ってね」 「うん、ありがと。でさ、サラッと大親友を見捨てる決意した所悪いんだけど、折角だしミュシャも一緒に受けようよ」 「あー、うん。そうだねえ…………え?」 さらりと言われた言葉を聞き流し、惰性で返事をしていると、レニーはニコニコしてこう言った。 「ミュシャが一緒なら試験勉強も楽しそうだし」 「いや!ちょっと待って!何であたしが適正試験受ける流れになるかな!?」 「いいじゃん。記念記念」 「んな記念いらんわ!あたしは忙しいの」 「またまたー。どうせ日がな一日機械弄りして遊んでるんでしょ?それにそもそも強制参加なんで拒否権はありませーん」 「なんて横暴な?!」 「あのねえ、私は親切で言ってるの。知ってるんだよ?おじいさんが亡くなってから外部の発注、殆ど無くなってるんでしょ」 「うぐ」 痛い所を……! 胸に手を当てて呻くとレニーは先程までの軽い口調とは異なり、まるで年上のお姉さんみたいな口調でズバズバと指摘した。 口を挟む事も出来ず呻いていると、その間にもレニーは遠慮なしに攻めて来る。 「うちみたいなバリバリの工業都市で中古品使う物好きがどれだけいるのよ」 「こ、この間……ラジオ直したもん」 「それ、いつの話し?」 「い、1週間くらい前?」 「正確には?」 「……すいません、9日前です」 言葉に詰まりながら呟くと、レニーは「ほらね」と溜息まじりに肩を竦めた。 「10日に1度、中古品の修理したり部品探したりしてるだけじゃ生活なんて出来ません」 「でも、じーちゃんは……」 それでも上手くやってた。そう言おうとすると先回りしたレニーに封殺される。
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