7人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
その背後にいる若者を、サムは見た。長身の------
彼が、明滅する光のなか、す、とサムを見る。
刹那、サムのなかから全てが消えた。身体を揺さぶるロックのビートも、狂気のような光の明滅も。不意に、なにもかもを深海の懐に包み込むかのような酩酊が、極上の混沌を衝きつけて来た。
どう視認したわけではないのに。
長い銀の髪、白い肌、世界中の宝玉よりも美しく、凄まじく、凛とした生きざまを知らしめる、ヴァイオレットの双眸。そうまで見えるはずのないその姿を視た瞬間、彼はサムの脳裏に焼きついた。そうして、
「もう行った方がいいな……」
聞こえるはずのない、唄うような低い呟きが甘く耳朶を侵す。
息が詰まり、足が震えた。奇跡のように整った唇から紡ぎ出された、なんと魅惑的な声であるのか------
サムの動揺をよそに、リュウが若者を見遣り、
「Yes, my dear load」
これ以上ないくらい優しく、恭しく、応えた。その真摯な愛情に満ちた視線が名残惜しそうに若者から離れてサムに向けられた途端、一気にビートが戻って来、サムはひどくたじろいだ。なんだったんだ、いまのは------
問いかけるようにダグとサラを見たが、ふたりとも若者を気にした様子もなく、感慨深げにリュウだけを見つめていた。
「それじゃ、これで」
音楽に負けじと幾分声を大きくして、リュウが言った。サムはうろたえ、
「あ、いや待っ------」
「リュウじゃないよ」
「ええ、ひと違いだわ」
慌てて引き留めようと------どちらを、かは自分でもわからなかったが------手を伸ばすのを、クレイ夫妻が遮った。
「なん------なんだって ? 」
「彼らを行かせてやれよ、サム。せっかく遊びに来たのに悪かったって言ってな」
最初のコメントを投稿しよう!