かよ

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「だいたいあんたってやつは、どうしてこうもていたらくなのさ!」  朝から菊子の怒声が轟いた。この調子だと姉の声が居間まで届いているかもしれぬと、洋治(ようじ)はそわそわする。が聞いていやしまいか。 「あんたが怪我してこっち戻ってきたときは、まあ同情くらいしたわよ。でも一家の大黒柱になる男が畑も手伝わず、仕事もせず、かといってなにか事業を起こすでもなく……」 「おれが事業を起こせる能に見えるのかい」 「だまらっしゃい!」  菊子の額に(つの)が生えた気がした。表情はもはや般若のそれだ。 「誠意を見せろと言ってるの。だいたいね、このご時世にかよさんみたいな嫁をもらうのがどれだけ大変かわかってるの? あんたが働かなかろうと文句の一つも言わない。器量よし、裁縫よし、料理よし。そんな嫁を楽させたげようとは思わないわけ? 毎朝毎晩酒に浸ってばっかり。いっそ死んで骨になって戻った方がいくらかかよさんの足しになったかもね」 「なんてこと言いやがるんだ。姉だからって言っていいことと悪いことがあるぞ」 「あたしが言ってやらなきゃ誰が言うんだ!」  菊子のとどめの言葉に洋治はふんと鼻を鳴らし、おぼつかない足取りで家の外へ歩いていく。 「待ちな、まだ話は終わっちゃいないよ!」 「わぁってるよ! 近所の壁は薄いんだから。こんなにどなられちゃあ、はずかしくってしばらくここにおられないよ」  洋治は言い捨てて、土間を出ていった。
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