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Chapter.2
しばらく走って目的の神社に着くと、両手に抱えていたモノを社の縁側(?)に置いて、自分も座った。
「あー、しんど」
息切れと汗ばむ肌がキモチワルイ。そこかしこに自販機すらないような田舎で全力疾走なんてするもんじゃない。
「こっ、こわかったです!」
腰を下ろした横にアルマジロ(の抜け殻)、さらにその横に30センチの少女が訴えてくる。
「しょうがねぇじゃん。別の人に見つかったほうが面倒なことになんでしょ」
「それはそうですけどー」
月明りだけでは頼りなくて、スマホのライト機能を照明代わりに会話を始める。
「で、なんなの、あんた」
「地球人から見ると宇宙人です。でも、分類的にはあなたと同じ“人間”です」
「コレは」
指さしたのはアルマジロ。
「これはアルマジロアーマーって言って、地球の大気圏に突入する際、私たちの身体が焼けてしまわないように保護してくれる防具です」
これ優秀なんですよー、と持ち主が抜け殻を裏返すと、背中側にクッション材のようにして生活用品が詰め込まれていた。もちろん、30センチの少女が使いやすいように、ミニチュアサイズだ。
「一番外側が本当に強い素材で出来てて、中は収納たっぷり! 最近出た上位モデルなんですよ!」
少女は誇らし気に胸を張る。
「いや、うん。そうなんだ」
別にそこまでは聞いてないけど、もうツッコむのも面倒くさい。走って疲れたし。
「あんたの星がどこだか知らないけど、そこにもいるんだ、アルマジロ」
「いえ、これは地球のアルマジロを参考に作ったものです。優秀ですよね、アルマジロのこのカラダ」
「え? 有名なの? 地球」
「はい、もちろん! 進化の過程も興味深く、様々な星で研究されていますよ」
「え、そうなの……」
「はい、我々○×☆△◇星人憧れの星です!」
「え? なんて?」
一部の言葉が、音のような雑音のような、聞き取れない波長でつむがれた。
「んー、星の名前は固有名詞なので、翻訳機を通しても現地語になっちゃうみたいですね」
「翻訳機?」
「はい、我々の星の言語と地球の言語は違いますからね。翻訳機は必須です」
「ふぅん。良くわからんけど」
どうやらインカム形式のそういう機材を身に着けているらしい。道理で日本語が通じるわけだ。
「でしょうねぇ。そもそもこんなに冷静にコンタクトを取っていただけるとは思ってもみませんでした」
「いや、俺だって不思議だよ」
「そうですよね」あはー、と笑った顔が案外可愛い。小さいけど。
「でー、物は相談というかー、故郷を出て他の星に来るにはひとつ、条例というか、法律というか、お約束がありましてー」
少女はもじもじしながら切り出す。そういえば走り出す前にもなにか言いたげだったっけ。
「うん」
「○×☆△◇星人は、最初に遭遇したその星の先住民とは、契約を交わさないとダメなんですよー」
「なに、契約って……」
「その人のおうちに、住まわせてもらって、そこで先住民の生態を観察したり交流したりしながら、行き先の星に適応していく、っていう……」
「……それ、破ったらどうなんの」
「強制送還ですね、私」
「それだけ」
「あと、遭遇した先住民の記憶を消します、これで」
少女は腰のホルターから拳銃を取り出した。それは少女の体格にあわせたサイズで、俺からしたら指先でつぶせるんじゃないかって大きさだけど……。
「一応、地球に住んでる……なんて名前でしたっけ、ほら、身体がでかくて鼻が長い……」
「像?」
「あー、それそれ! その生き物を気絶させるくらいの衝撃を受けちゃいますけど、大丈夫ですよね?」
語尾にハートマークが付きそうな無邪気さで、少女が小首をかしげる。
「いやいやいや! 死ぬって!」
「えー、でも死んでも死後の世界で生きていけますしー」
「あんたの星の死生観はよくわかんないけど、俺まだやり残したことがたくさんある、前途洋々な若者だから!」
「えぇー。じゃあ、契約、するしかないですねぇー」
少女は白々しく口を尖らせた。
「……家に置くだけでいいの?」
「えぇ、置いていただいて、寝床さえ与えていただければ、あとは自活……頑張ります」
「しますじゃなくて?」
「だってぇ、実家出るの初めてなんですもんー」
「別に置くだけならいいかと思ったけど、世話しなきゃなんないのはいやだな」
「そんな猫や犬みたいに言わないでくださいよ。私だってごはんくらい作れますし。上手なんですよ? お料理」
「いや知らないし」
「良ければあなたの分も一緒に作りますよ?」
「いや、ありがてーけど、量が足りねーし、きっと」
「あぁ、地球人であなたくらいの年齢の男性は良く食べるっていう話、聞いたことあります!」
「いや、食べ盛りじゃなくても足りないと思う」
そもそもの身体のサイズが違うんだし、食べる量だって比例して違うはずだし。
「なに、あんた、天然系?」
「てんねん? すっとぼけてんね、とはよく言われてますけど」
「でしょうね」
「……でー、どうでしょう……? どちらがいいですか? 消します? 記憶……」
30センチ少女は俺に向かって銃を構える。
「いやいや、待ってよ。もうちょっとあんたの生態聞いてから……」
「えー。まぁ不成立になったら記憶消えるしいっかぁ……」
頬をぷくりと膨らませて、少女は板張りの縁側に腰を落ち着かせた。
どうやらこれから、俺と自称宇宙人の少女との共同生活が始まるみたいだ。
end
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