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Chapter.1
なんたら流星群が見られる夜だった。
田舎の、ようやっとアスファルトで舗装されたような道を一人歩いていた俺は、その夜空を見上げていた。
特にそれを見ようとしてたわけじゃないけど、なんとなく外の空気が吸いたくて30分ほど家の近所を散策中だ。
星が降る夜、というのはこういう日のことを言うんだろうな、なんてポエティックなことを考えていたら、その流星群のうちの一筋がこちらに向かって落ちてきている。
気付いた一瞬あとに、どがっ! と音がして、目の前の道路が窪んだ。
なにが起こったのかわからず、その窪みをまじまじと見つめる。あまりのことに身体は動かない。
直径30センチほどのクレーターからは白い煙があがっている。それが温度によるものなのか、砕けたアスファルトが舞っているのかは判別がつかない。
「いててて……」
クレーターの中心部から、女の子の声が聞こえた。
その声に我に返り、恐る恐る覗き込むと、一番深い中央部から一匹のアルマジロが這い出て来た。
「は?……え?」
理解しがたいことが重なり合いすぎて言葉にならない。
何故急に地面が窪んだのか。そこに何故アルマジロがいるのか。何故そのアルマジロが人間後をしゃべっているのか。そして――。
「あっぶなー! あと何センチかずれてたら、地球人殺しになってたー!」
そう。その謎の生き物の落ちどころが悪ければ、俺に直撃していたのだ。アスファルトが30センチもめりこむような衝撃を受けて、柔らかい人間の身体が無事でいられるわけがない。っていうかいま俺のこと“地球人”って言った?
「やー、ごめんなさい。微妙に計算ずれちゃいました。本当はあっちの森に着地するつもりだったんですよー」
と、アルマジロは短い手を数百メートル先の森に向けた。
「いや、微妙じゃないし。めっちゃ離れてっし」
思わず一番近いツッコミどころにツッコんでしまう。
「なんなの、あんた。アルマジロ……だよね」
「あっ、そうだけど違くて……」
アルマジロは身体をもぞもぞ動かして、脱皮しだした。
「うわ! えっ?!」
「アルマジロッ…なのはッ……外ッ側ッだけ……!」
落下物は外身を全部脱いで、地面にゴトリと置いた。
「中身は、普通の女の子でーす」
自称“普通の女の子”は確かに人間の女の子の見た目で言うけど、その全長はアルマジロ時と変わらず、目測30センチほどしかない。
「やー、地球人はでっかいって聞いてたけど、ホントにでっかいんですねぇー」
30センチの少女は俺を見上げて言った。
開いた俺の口から、言葉は発せられない。
(……そうだ。見なかったことにしよう)
とっさに考えてその場をあとにしようと歩を踏み出す。もちろん、その少女とクレーターは避けて。
「あー! 待って待って! 話を聞いてくださいー!」
少女は慌てて俺の右足に抱き着いた。意外に力が強い。
「痛い痛い、なに! 見なかったことにしたほうが、俺もあんたも都合いいんじゃないの!?」
「それが出来たら良かったんですけど、それが出来なくてですねー」
少女が奥歯にものが挟まった様子で何か言おうとしているが、道の向こう、遠くから車のヘッドライトが見え始めた。
「やべ。ちょっと、移動しよう」
クレーターとこの30センチ少女が見つかると面倒な気がして、少女に声をかける。
「えっ、はい」
「触って大丈夫なの?」
少女と道に脱ぎ捨てられたアルマジロを交互に見る。
「あっ、はい。もう表面も熱冷めてると思うので」
「ん」
了承を得て、左手にアルマジロ、右手に少女を抱えて走り出す。
「えぇっ?! 私もですかぁ?!」
「だってどう考えても着いてこれねーだろっ!」
猛ダッシュしながら少女に言い放った。そこから数十メートル離れた神社に向かって、30センチのクレーターにタイヤがはまりませんように、と祈りながら走った。
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