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「彗星SHOW」
「彗星SHOWが、まもなく始まります。」
無機質なアナウンス、しかし、艦内は大きくどよめいた。
ここは宇宙船の中。
今から僕たちの母なる地球は、数億年、いや、数兆年に一度の彗星によって破壊される。
それを僕らは、地球人として見届ける。
日本人は、なんでもお祭りにするのが得意で、『彗星SHOW』は今年の流行語になった。
僕は健康な身体のおかげで、幸いにも彗星ショーを目撃することができている。
妻がここにいれば、きっと目を輝かせて彗星を観察しただろうに。
彼女とは大学時代、天文サークルで出会った。
彼女は彗星が大好きだった。
死ぬまでに彗星を見てみたい、と彼女はそう、よく言っていた。
君も向こうで見ているんだろうか…。
じんわりと目頭が熱くなる。
別れ際、彼女は、
「またどこかで会えるわよ。宇宙は広いのよ?」
と片方の眉を上げていびつな笑顔を浮かべていた。
僕は彼女を抱きしめることしかできなかった。
ああ、もうすぐ彗星が、地球にぶつかる。
数多の彗星が、容赦なく故郷に降り注ぐ。
海は青さを失い、徐々にどこからが陸で、どこからが海か、境目かわからなくなった。
彗星がぶつかるごとに、今までの想い出が浮かんでは、消える。
妻と過ごした場所が、景色が、甘美な想い出が、跡形もなく破壊された。
僕は、星屑に向かって妻の名前を叫び続けた。
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