プロローグ。方向を間違えたエネルギー

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 現実逃避をしていた俺の側で、幾分か低くなった桐山の声がする。ぎくりとして彼の方に目を戻すと、形のいい目がじっとこちらを凝視していた。  黙って然るべき場所で適当に立っているところなんかの写真を撮ってばら撒けば、至る所でファンが付きそうな外見をしている少年、それが桐山だ。普通に着ているだけの学ラン姿までも格好良く見えてしまうのだから、大したものだとは思う。  だけど、黙っていられないところがいけない。 「今、思いっきり『どうでもいい』って思ったろ。すごい呆れ顔だ」  右手で頬杖を突きながら、桐山は俺を指さした。 「どうでもいいっつーか……『なんて悲しいことを言う奴なんだ』とは思った」  俺は軽くホールドアップして見せてからため息をつく。  この東京という都会の地でも、俺たちの頭上に星は輝かず、代わりに俺たちのいるこの地上に夜景が瞬く。奴の言葉を使えば、『残業の光』が高層ビルの数々に瞬いているのだ。それって切なすぎやしないか。 「桐山はつまり、こう言いたいんだな。リア充が肩を寄せ合って眺める地上の星の数々は、その時間にも残業している人たちのオフィスから出来ている、って」
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