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「そうだ、悠斗! せっかく、同じクラスなんだ。日菜の友達一号になってやったらどうだ?」
「……っ」
石谷の言葉に、日菜は再び、ハヤシライスの味が逃げていくのを感じた。
困り顔であいまいに笑う日菜に対して、
「え~? 同じクラスってだけで?」
悠斗はわかりやすく嫌そうな顔をした。
日菜だって、いきなり友達になってやれと言われても困ると思う。でも、だからって、そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいと思うのだ。
これが照れ隠しとかなら、まだわかるけど。全然、そんな雰囲気じゃない。
――中学生なんだから。もう少し、気とか使えないわけ!?
悠斗の横顔をにらみつけて、日菜はムッとしながらハヤシライスをほおばった。
「ハルちゃんには、たくさん面倒見てもらっただろ?」
石谷の言葉に悠斗が大真面目な顔でうなずいた。
「ばあちゃんだけじゃない! じいちゃんにだって、たくさん面倒見てもらってるよ!」
その言葉に、日菜はさらにムッとした。
だって、おじいちゃんもおばあちゃんも、日菜のおじいちゃんとおばあちゃんなのだ。なのに悠斗は、まるで自分のおじいちゃんとおばあちゃんのように語っている。
日菜たち家族がおじいちゃんとおばあちゃんのところに来るのはお正月と夏休みくらい。車で一時間もかからない距離だから、いつも日帰りだった。
悠斗は小学生の頃から、しょっちゅうこの店で夕飯を食べていたのだから、日菜よりもずっと、たくさん、おじいちゃんとおばあちゃんと過ごしてきたのだろう。
なつくのもわかる。
でも、それにしたって……気に入らない。
むしろ、だからこそ気に入らない。
だって、ここは日菜のおじいちゃんとおばあちゃんのお店で、家なのだ。日菜の、おじいちゃんとおばあちゃんなのだ。
日菜の、居場所なのだ。
「なら、なおさらだよなぁ、悠斗。日菜の友達になってやって、いろいろと面倒見てやれよ」
「……面倒くさい」
ぼそりと悠斗がつぶやくのを聞いて、石谷が笑顔でげんこつを作った。そんな石谷を見て、悠斗は唇をとがらせた。でも、どちらの目も笑っている。お決まりのやり取りなのだろう。
日菜はさらにムッとした。
「わかったよ」
悠斗はようやく日菜に顔を向けると、そう言った。
「なんかあったら聞けよ。教えられることなら教えるし、助けられることなら助ける。じいちゃんとばあちゃんの孫だしな」
最後の一言で、ムッとした表情は無表情に変わった。完全に頭にきた――と、いうやつだ。
背筋を伸ばすと、
「結構です」
日菜は無表情のまま、言った。
日菜の冷ややかな声に、悠斗は目を丸くして首をかしげた。
石谷はしまった、と言わんばかりに口に手をあてた。おじいちゃんが無言で石谷の後頭部を平手打ちしていたのだが、それは日菜からは見えなかった。
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