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春(2)
中学二年の四月から一年間だけ。
おじいちゃんの家で暮らすことに決まったのは、ほんの三か月前のことだった。
一年くらい前からそうなるかも、という話は聞いていた。
でも、お父さんの単身赴任も、お母さんの長期海外出張も、行かずに済むように会社と相談するから。せめて、時期をずらせるように頑張るからと言っていたのだ。
それが三か月前になって、やっぱりどうしても行かなくちゃいけない。中学生の娘一人を家に置いておくわけにはいかないから、おじいちゃんに預かってもらおう。中学もおじいちゃんの家から通えるところに転校しよう。
そういう話になった。
日菜の引っ越しと転校が決まる前の一週間。お父さんとお母さんは仕事から帰ってくると、毎日のようにケンカしていた。
毎日、毎日……。
そんな二人を見て、転校なんていやだ。引っ越しなんてしたくない。……なんて、日菜には言うことができなくて。
「本当にいいのね? 一年間、おじいちゃんのうちから、そっちの学校に通うんで」
「奈々ちゃんとあやちゃんと離れるのはさみしくないか? そうだ、スマホがあれば連絡も取れるし、さみしくないな」
「制服も体操服も、東中の物のままでいいかしら? ……まぁ、一年だけのために買い直すのももったいないものね」
お父さんとお母さんが話す疑問系の決定事項を、うつむいて聞いていることが。返事もせずに聞いていることが。
日菜の精一杯の反抗だった。
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