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昼休みには和真だけじゃなくて、副委員長の女の子もいっしょに校内を案内してくれた。
橋本 真央と名乗ったその子は、ちょっときつめの顔立ちの女の子だった。
背が高くて。長い髪はゆるくウェーブがかっていて、ハーフアップにしてリボンで結っている。格好も、喋り方も、お嬢さま学校にでも通ってそうな雰囲気の子だ。
二人は音楽室や更衣室、保健室とあちこち案内してくれた。保健室を使うときの注意事項もていねいに教えてくれた。
面倒見のいいお兄さん、お姉さん――と、いった感じだ。
「国語は週一回、漢字の小テストがあるから気をつけて。一年のときのだけど、明日、見せてあげるわね」
「数学の西田は三連休のときには必ず宿題を出すんだ。でも、ドリルの何ページから何ページをやってこいって内容だから。三連休に用事があるときは、先にドリルをやっておくといいよ」
ハキハキと話す二人のあとをくっついてまわりながら、
――同い年なのにしっかりしてるなぁ。
――きっと、こういう人なら一年きりの転校でもちゃんとクラスになじんで。すぐに友達もできるんだろうな。
なんて、ぼんやりと考えていると、
「あとは……また、思い出したらかな」
「木村さん。なにか聞いておきたいことはあるかしら?」
急に話をふられた。和真と真央に同時に見つめられて、日菜は反射的にうつむくと首を横に振った。
本当は聞いてみたいことは色々とあった。
体育が苦手だ。
体育の授業内容がどんな風か。体育の先生は厳しくないか、すごく気になる。
音楽――特に、歌うのが好きだ。
音楽の授業内容だって気になる。小学校のときの先生は歌が好きじゃなかったのか。合奏ばっかりだったから。
でも――。
和真は男子たちにサッカーに誘われてたのを断って。真央も友達だろう女の子とのおしゃべりを断って。昼休みをつぶして、日菜の校内案内をしてくれていた。
これ以上、二人の時間を奪ってしまうのがもうしわけなくて、
「大丈夫……です」
と、日菜は小声で答えた。
目を合わせようとしない日菜に、和真と真央は困ったように顔を見合わせた。でも、すぐににこりと笑うと、
「また何か気になることがあったら私たちでも、クラスの子にでも気軽に聞いてちょうだい」
真央はそう言った。
ありがとう、とか。よろしく、とか。何か言わないと……そう思ったけど、言葉はうまく出てこなくて。
日菜はあいまいに微笑んで、こくりとうなずいただけだった。
教室に引き返す和真と真央のあとを、日菜は黙ってついていった。
見慣れない校舎も、二人の後ろ姿もくすんで見えて。日菜は二人に聞こえないように、小さくため息をついた。
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