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春(4)
春休み明け初日だというのに六時間目まできっちり授業をやって。帰りのホームルームを終えて。
その日はやっと解散となった。
中学二年なら、もう部活動に入っている。帰宅部の子たちだって、いっしょに帰る子や、次にどこに行くかは大体、決まっている。
クラスメイトたちが次々に教室を出ていくのをぼんやりとながめていた日菜は、
「白石! ホームルーム、終わったぞ。いつまで本、読んでるんだよ」
クラス委員長の和真の声に驚いて、そちらに目を向けた。
和真は大きなスポーツバッグをななめにかけていた。運動部所属らしい。なんとなく、イメージどおりだ。
その和真は日菜のななめ前、窓際の席に座る男の子を見下ろして、渋い顔をしていた。
朝のホームルームのあと、佐藤先生に注意されていた子だ。そのあとの授業でも、ホームルームでも。休み時間が終わったことに気が付かず、夢中で小説を読んでいた。
何度も先生にやんわり注意されたり、怒られたりしていて、さすがの日菜も今日一日で顔と名前を覚えてしまった。
どうやら先生だけじゃなく、クラス委員長にも目を付けられているらしい。
でも、当の男の子は、
「……ん?」
なんて言いながら、のんびりと顔をあげた。あたりを見回して、ようやくホームルームが終わっていることに気が付いたのだろう。
「あ……」
と、間の抜けた声をあげると、机の横に引っ掛けてあるカバンを手に立ち上がった。
「本を読むのが好きなのはいいことだけど、授業やホームルームのときにはやめろよ」
「チャイムに気が付いたらやめてるよ。――じゃあな、平川」
和真の小言なんて気にした様子もなく、男の子はさっさとドアの方に走っていってしまった。嫌味な言い方じゃないけど、のれんに腕押し、ぬかに釘感がある。
和真も同じように感じたらしい。額を押さえて、ため息をついていた。
――あの子も、転校しても全然、平気そう。
和真や真央とは全然、違う理由だけど。
日菜はうらやましい気持ちと、少しだけざわざわする気持ちとで、教室のドアから出て行く男の子を見送った。
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