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引っ越す日――。
見送りに来てくれた奈々と彩乃に抱きしめられて、頭を撫でられて。泣きながら車に乗り込んだあと、お母さんに言われた。
「一年なんて、あっという間よ」
なぐさめのつもりだったかもしれない。事実なのかもしれない。
でも、それを聞いた日菜はうつむいて、唇を引き結んだ。鼻の奥がつんとなって、胸がずしんと重くなったあと。
視界に映るもの全部がくすんで見えるようになった。
――だって、一年は短いようで、長い。
最初は毎日のように届いていた奈々と彩乃からのメッセージは、きっと徐々に少なくなっていって。そのうち来なくなってしまうかもしれない。
大丈夫、こっちで友達ができたよ――なんて言ったら、よけいに。
そうして一年後、日菜が戻った頃には奈々も彩乃も、すっかり日菜がいないことに慣れてしまっていて。
もう日菜の居場所なんてないのだ。
こっちで新しい友達ができたって同じことだ。
一年後には引っ越して、しばらくしたら日菜のことなんて忘れてしまうのだろう。
奈々と彩乃がいる東中にも、この西中にも。一年後には日菜の居場所なんてないんじゃないか。
そう思うとすごく、すごく怖いのだ。
でも、怖いと言っても。さみしいと言っても。みんなに気を使わせて、困らせるばかりだと。
「大丈夫、ずっと友達だよ」
なんて、言われてもみじめな気持ちになるばかりだとわかっている。
だから、日菜は唇をかんで、泣きながら。
お母さんにも、お父さんにも、おじいちゃんにも。奈々にも、彩乃にも。真央にも、千尋にも言わず。一生懸命に言葉を飲み込んだ。
転校したくない、も。
さみしい、も。
怖い、も。
友達になりたい、も。
全部、全部。こくりと飲み込んだ。
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