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春(5)
おじいちゃんの家の三階は、屋根裏部屋みたいになっている。
日菜が小さい頃から、泊まりに来ると使っていた部屋だ。階段をあがるとドアも何もなくて、いきなり十畳ほどの一間があるのだ。
一年間、日菜が使うのも、この部屋になった。
昔から置いてある古いベッドに、お客さま用の布団をひいて。古い机とタンスに家から持ってきた物を押し込んだ。
一年だけのことだからと大した量は持ってきていない。すぐにしまい終わって、今はきれいに片付いている。
窓際に置かれたベッドのまくらに顔を埋めていた日菜は、スマホが震える音に顔をあげた。
『夕飯できたよ。下りておいで』
無口なおじいちゃんとのやりとりは、文字が基本だ。無口だけど、画面に表示される言葉は意外にも優しい。
それに――。
――結構、使いこなしてる……。
デフォルメされたタカが肉をくわえている、かわいいスタンプを見て、日菜は困り顔になった。
ベッドから起き上がると、まずは二階に下りた。
泣きはらした顔を洗面所で洗って、髪をとかして。玄関から外階段に出て、一階へ。角を曲がったところに、ひっそりと木の立て看板が出ていた。
喫茶・黒猫のしっぽ――。
それがおじいちゃんがやっている喫茶店の名前だ。
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