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幼馴染のままじゃイヤ ⑴
《日野秋好 視点 》
忌々しいが、高二になると風紀委員長をやらなければならなくなった。風紀の顧問に現委員長や委員達の総意だと言って、引き受けなければ生徒会役員の候補に入れるぞと脅された。風紀委員長でも生徒会役員でも同じだ。役を引き受けるということは、特別室という名の一人部屋に隔離されるということで、高良と部屋が分かれてしまう。ぽやぽやした高良に、変な虫が付いたらどうしてくれるのだ。来季から風紀の副委員長になる河野池に俺が副委員長をやるからお前が委員長になれと言ったが、すげなく断られた。副委員長ならば同室でいられたのに。
ここは私立旺統学園。山奥の中高一貫の全寮制男子校だ。
いわゆる金持ちの子弟達が街中で問題を起こしたり、問題に巻き込まれたりしないようにと、家族からこんな山奥の学校に放り込まれているのだ。学園内でなら、問題を起こしてももみ消せるし、同年代で横のつながりや縦のつながりを得て欲しいという親たちの思惑もある。
日野家は大金持ちというわけではないが、老舗の外食チェーンを展開している、そこそこの金持ちではある。そして、高良の家も、苑田製薬という中堅の製薬会社だ。
俺は日野秋好。日野家の長男で一人っ子だ。そして、苑田高良とは、家が隣同士の物心ついた時からの幼馴染だ。高良も一人っ子だから、俺達は兄弟同然に育った。ぽやぽやとしてどこか頼りない高良を守ってやらなくちゃと、幼心に思った俺は、お兄ちゃん気取りで、武道も運動も勉強も、高良にいいところを見せたくて、ずっと頑張っていた。そのうち、神童だ、なんて言われるようになったが、俺は自分が井の中の蛙だっていうことを知っていた。現に、この学園に来て、トップを取ることが至難の業になっている。人気投票なんて軟派なもので選ばれたくせに、生徒会役員の面々は、文武両道で、なかなかトップを取らせてもらえない。そんなところも、この学園の面白さではある。
話が逸れたが、俺はこの学園に入る前、小学校の時から、高良を兄弟以上に想うようになった。要するに好きなのだ。高良は鈍いから俺の気持ちに気付いていないが、他のやつらにやるつもりは微塵もない。高三になって受験勉強に忙しくなる前に、俺は高良を落とすつもりだ。別室になるのは、悪いことばかりでもない。高良に俺を意識させるきっかけになるかもしれない。
《苑田高良 視点 》
苑田高良、それがオレの名前。今度、高二になる。高二になったら、家が隣で、この学園に入った中一の時から同室だった日野秋好とは別室になる。秋好は風紀委員長になるから一人部屋になるんだって。
秋好はすげー奴だ。勉強も運動も出来るし、喧嘩も強い。面倒見が良くて、オレの自慢の幼馴染だ。同い年だけど、ちょっとだけ頼りになる兄ちゃんみたいだなって思っている。背も、オレより頭一つ高いし、休みの日に一緒に街を歩くと、絶対女の子に声を掛けられるくらい、すごくカッコいいんだ。
この学園は中高一貫の全寮制男子校ってやつだから、男同士で恋愛したりしているやつも普通にいる。別に差別はしないけど、オレは女の子がいいなって思っている。だって、男と違って柔らかそうだし、可愛いじゃん。秋好と付き合っているんじゃないの? なんて聞いてくるやつもいるけど、付き合ってなんかないからな。もちろん、秋好はこの学園でもモテるけど、秋好だって男には興味ないと思う。多分。この学園にいたら女の子との出会いはない。たまの休みも、秋好と一緒だと、女の子の視線は秋好にいっちゃうしね。だから、オレは大学デビューを夢見てるの。その為には勉強だって頑張るし、体だって鍛えるつもり。全然筋肉つかないけど、筋トレだって頑張ってる。秋好の十分の一しかできないけどさ。
高良はそのまんまでいいよって、秋好はオレに甘いけど。でも、いつまでも甘えてばかりはいられない。オレだって、秋好以外のやつと同室になっても上手くやっていくつもり。
もうすぐ新学期。いよいよ高二になる。誰と同室になるんだろう。
オレはちょっとワクワクしていた。
《橋谷征矢 視点 》
「オレ、B組の苑田高良、保健委員をしているけど、部活は入っていない。今度風紀委員長になった日野秋好以外と同室になるのは初めてなんだけど、仲良くしてね」
あらかじめ用意していたセリフを言い切ったって顔して、ニコッと笑った苑田君は、綺麗で可愛い。風紀の青鬼と呼ばれている日野君の掌中の珠と噂に名高い。本人は人懐っこい子犬系だが、後ろの青鬼が怖くて、邪(よこしま)な気持ちで近づく奴はほとんどいない。
「僕はC組の橋谷征矢。図書委員で、文芸部です。よろしくお願いします」
同い年だけど、ついつい敬語になってしまうのは、やっぱり青鬼が怖いせいもあるのだけれど、もともと敬語の方が喋りやすいのだ。僕はいわゆる腐男子っていうやつで、この学園には高校から入った。もちろん、お目当ては同性愛カップルの観察っていうちょっと不純な動機。ネット上には僕の書いたBL小説(もちろんフィクションだよ)が、結構アクセスを頂いたりしている。
「荷解き、手伝おうか?」
僕の荷物の段ボールを指さして、苑田君が言ったが、とんでもないと慌てて首を横に振った。
「だ、大丈夫。僕、一人で出来るから。苑田君は先に夕飯を食べに行ったら? A定食、今日は唐揚げだって、食堂のおばさんが言っていたから、売切れるの早そうです」
「そっか。じゃあ、オレ、先に食堂に行ってるな。それから、苑田でいいから。君いらないからな」
苑田君はそういうと、部屋を飛び出していった。
段ボールには、苑田君に見せられないBL本やらBL小説の資料やらが沢山入っているのだ。上手く隠さなくては。高一の時同室だった向井君は、腐男子ではなかったけれど、生徒会役員親衛隊の幹部をやるくらい、そういうモノに理解があった。高二になって、生徒会役員親衛隊の隊長になった。向井君は和風美人な外見だけれど、率先して面倒ごとを引き受けるような漢気も持っていて、素敵な人だ。俺様生徒会長なんかにはもったいないと僕は思うんだけれど、向井君は岩倉君が好きらしいんだ。時々、部屋で溜息を吐いていたのを知っている。
苑田君は、日野君が好きなんだろうか? 二人は付き合っているんだろうか? 僕の腐男子ネットワークでは付き合っていることになっているけれど、本当のところはどうなんだろう? 苑田君と同室になったら、きっと二人の関係もはっきりと分かるはず。僕は密かに楽しみにしていた。
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