0人が本棚に入れています
本棚に追加
空を見上げたままでいる美咲のことを私はいつしかじっと見つめて、次の言葉を待っていた。
そして、不意に美咲が私の方を向いてきて言ったのだった。
「そんな絵空事を口に出して言える。だから、夢が叶うって思う」
「口に出して言えるから、夢が叶う?」
「そうそう」
美咲の言うことがいまいちピンとこなかった。
自分の夢が口に出せたからなんだと言うのだ。言葉にすればそれが言霊となって叶えてくれるとでも言うのだろうか。美咲がそんなことを考えているとは到底思えないが。
「お金欲しいとか、彼氏欲しいとか。そうやって、笑われても、引かれても、怒られても口に出して言えるからこそ、夢が叶うんだよ」
「つまり、いつまでもそういう意志を強く持っている人だからこそ、夢が叶うってこと?」
「う〜ん。そうなのかな……」
「自分で言っておいて、意味がわかってないの?」
「いや、なんて言えばいいかわかんないや」
「なにそれ」
お酒を飲んで、自分たちが何を言っているのかもわからなくなってきた中で、不意に出てきた美咲の言葉を一瞬。ほんの少しだけかっこいいなと私は思ってしまった。
「だから、とりあえずなんか言葉にしときなよ。早織」
「もしかして、それだけのために今の言葉言ったの?」
「そんなことないよ。ただの偶然」
緩るけきったその顔で美咲は私に近寄ってきた。先ほどまで感じていた美咲からのお酒くささはすっかり消えており、あたりにはお酒の甘い匂いだけが漂っていた。
「早織の夢はなに?」
再び聞かれた、その質問に思い浮かんだことが一つだけあった。
真っ暗な空に向かって光を放っている街を私と美咲は眺めながら、私は自分の今しがた思いついたなんてことない、こどもじみた絵空事を言ったのだった。
それは、流れ星が流れる時間。一秒ほどで終わってしまう願い事。
「三回言ってないよ」
「口に出すことに意味がある。でしょ」
「……まぁ、いいや」
私の願いは世界の闇に消え、私たちの胸の中にだけ残っていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!