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「高校一年の時に好きな先輩ができてさ。その先輩が今通っている大学に進学してたから、最初は冗談まじりで頑張っていたけど、自分の進路について考え始めるようになってからは必死になって勉強した。あの先輩とおんなじ大学に行くんだーってさ」
お酒を煽りながら、美咲は私に語り聞かせるように話していく。
「先生も、私の親もそんな私を見て無理だって言うんだよね。そんなことあるかって思って必死に頑張ったけど、模試の結果が私に現実を教えてくれてさ。いやぁ、初めて模試の結果を見たときは泣いた、泣いた。だって、Eだよ。私なりに勉強してたのにそんな結果出されたらそりゃ誰だって泣くでしょ」
「それでどうだったの?」
「どうもこうも、もちろん死に物狂いで頑張った。そしたら、徐々に上がっていって、それでもA判定になることはなかったから、違う大学を志望しないかーって先生に言われて、断固拒否します! って言ったよ」
「そのあとは?」
「そのあとはって、ここにいることがその結果だよ。無事合格。そして、晴れて一人暮らし〜ってのは自信がなかったからこのシェアハウスに住むことになって、そして、早織に会った。そうして、楽しい楽しい大学生活を送ってるんだよ」
お酒が回って頭がしっかりしていないのか。それともあえて言わないのか。その本意は私にはわからなかったが、美咲はこの話の大切な部分をまだ言っていなかった。
「それで、先輩とはどうなったの?」
この話の根本はここであった。
今の話の大半はこれまでに美咲本人から何度も聞いていたから全て知っていた。
大学進学すると言った時に、大学の名前を出しただけで教師に笑われたことや、模試の結果を学校で受け取って、なんとか家まで泣かずに帰って、自分の部屋で一人泣いていたこと。そして、そのあと、必死になって勉強して体調を崩してしまったことなど。
彼女がこの大学に入ることを決めた先輩の存在以外の話は全て知っていた。だから、私が聞きたいのはただそれだけであった。
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