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「やめてたよ」
「やめてた?」
「そう。私がこの大学に入る少し前の秋に大学を辞めてたの。先輩と同じ回生の人に聞いて回ってた時に、そう聞かされた」
「そう……」
私にとって美咲という存在は太陽そのものだった。常に輝いていて、いつも楽しげで。だからこそ今日だって私の知らないような人たちと楽しくお酒を飲んでいて、ずっと輝いているのだと思っていた。
でも、そんなことは全くなかった。私が輝いていると思っていた美咲でさえこんな現実と目を向けていたのだ。そう考えると、ますます夢を語るのがバカらしく感じてきた。
「流れ星が流れるまでに三回願い事を言えたら願いが叶う……。なんて、誰が言ったんだろう。そんなふざけたような話」
「そうそう! 私もよく小さい時とか、流れ星がいつ流れてもいいように、めっちゃ早口で練習してたもん。早く大人になりますように、早く大人になりますようにって」
「そんなこと、わざわざ流れ星に願ってたの?」
「だって、あのときは毎日、朝早くに起きて学校行って、帰ってきたら宿題やって気づいた時には親に寝なさいって言われて、全然面白くなかったもん。でも、大人になればいつまで起きててもいいし、働いてお金だってもらえる。子供なら誰しもが思ったでしょ。早織は思わなかったの?」
「どうだろう。言われてみれば思ったことあるかもな」
子供の頃のことを思い出すと、私も代わり映えのしない毎日に暇を持て余していた時があった。夏休みなんかは特にそうであった。
宿題に手をつける気にもなれず、よくわからない番組ばかりやっているテレビを見る気にもなれず、かといって、どこかへ出かけることもできなかったあの束縛感。
自由なのに、囚われていた。
「確かに、夏休みとかにそう思ったかも」
「あー、わかる! お金もないし、どこにも行けないし。大人だったら好きなところ行けて、好きなことできるのになぁって思った、思った」
「流れ星に願い事なんて、ほんとバカらし……」
私は残り少なくなったお酒を飲みきってから、吐き捨てるように言葉を漏らした。
そして、そばに置いてあるビニール袋から同じお酒を取り出して封を開けて、口をつける。
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