星降る病

8/10
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「パルマー!」 カシムがようやく岩の上にある祠に辿り着いたとき、パルマーは冷たい地面の上に横たわっていた。名を呼んだが、反応はない。儀式用の服を着せられて、木の皮に書かれた祈りの言葉を握っていた。 早くここを離れなければならない。誰が追ってきているかも分からない。パルマーの軽い身体を背負ってカシムが祠を出た時、遠くで凄まじい爆音がした。目の奥を焼くような光が、幾度もちらつく。 「ほし……?」 「違う。あれは星なんかじゃない」 本物の星は、地上になんて興味はない。地平の向こうの海へ沈んでいく。遠くで生まれ育った荒野を焼くあの光は、星なんかじゃない。人間の作った、光と熱だ。 恐ろしい輝きと共に炎へ沈む故郷に背を向け、カシムは走り出した。実は、この祠から向こうには行ったことがない。村があるのかも知らない。それでも戻るわけにはいかなかった。 何時間も走り、心臓が破れそうになったら歩く。それを繰り返して、カシムは眠りもせずに進み通した。膝をつくことはあっても、決して倒れなかった。サンダルを失った足は、血まみれだった。 二回か三回、昼と夜が入れ替わった気がする。しかし、カシムの頭は右足を踏み出した後に左を踏み出すことしか考えられず、何日経っているのか数えることなどできなかった。 そしてある夜、遂にカシムの足に冷たい水が沁みた。知らない河が流れている。水だ。やっと、水にありつけた。掠れた声で、何度もパルマーを呼んだ。 パルマー、水だ 水があるよ、パルマー 冷たくて、飲める水だ 水を飲んだら、もっと歩ける お前の病気を治してくれる村が見つかるまで、お兄ちゃんがどこまでも歩いてやる 「パルマー……」 しかし、パルマーはもう返事を返してこなかった。 その時になって初めて、纏わりつく蠅の羽音が一つや二つではないことに気付いた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!