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俺は二宮政宗という名の普通の男子高校生で、恋愛経験値は1(告白前までは0だった)という情けない経歴の持ち主だ。
女と付き合った経験どころか、人を好きになったこともない。
俺ほどオクテな恋愛初心者も昨今なかなかいないだろうと思われる。
RPGで例えるとすれば、旅人の服しか装備していないレベル1の冒険者というところ。おそるおそる村を出てみたが、戦い方が分からない。誰か、チュートリアルを頼むと言いたい。
多分、一ノ瀬はそんなこと知らない。それどころか、あいつは俺のことを新宿歌舞伎町のホストのように女慣れしていると思い込んでいるのだ。
何故か。その理由は単純にして明快だった。
「ねえねえ、あの男の子超カッコよくない?」
「ほんとだ。一人かな? 声かけてみる?」
「逆ナンなんて無理だって!」
「でも何で一人で動物園なんか来てるんだろうね? もしかしてナンパ目的?」
ひそひそと交わされる同年代の女の声が聞こえ、俺は思わず視線を走らせた。すると、声の主と思われる三人組の女子高生が5メートルほど離れた場所で、「きゃあっ」と黄色い悲鳴をあげながら、「こっち見た」「やばい、まじイケメン」などとからかうようなことを言う。
女の集団にはいつもこんな調子でうんざりさせられる。決して自分からは声をかけないくせに、わざと聞こえるように噂話をする。それによれば、俺は視線を向けるだけで悲鳴をあげられるほどのイケメン(笑)なのだという。そんな自覚は全くないが、一ノ瀬が俺に対して良からぬ誤解を抱き、時々不機嫌そうな顔をするのはそのせいなんだろうなと思う。
ふと逆方向の一ノ瀬を見れば、彼女の頬はやはりいつもよりぷくっと膨れているように見えた。
あれは相当苛立っている時の顔だ。
まずい。何かフォローしなければ。
でも、どうやって?
何度も言うが、俺は超恋愛初心者。村人Aに勝るとも劣らないほどの力しかない、見掛け倒しの勇者なのだ。
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