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スーパーを出るとため息が出た。
特売日だと思ってジャガイモを余計に買い過ぎた。薄くて軽いエコバッグの持ち手が指に食い込んで痛い。振り回したらかなりの威力が出る凶器になりそうだ。
だがため息が出るのはその重さのせいだけじゃない。
「ダブルデートか……」
つい、独り言が出てしまう。
今朝の三井雫のおとぼけ発言の後のことだった。一ノ瀬が何を思ったか「そうだ、京都行こう」みたいなノリでこう言ったのだ。
「そうだ、今度ダブルデートしようよ!」
自分に彼氏ができたらいつかやってみたかったんだ、とはしゃぐ一ノ瀬の笑顔を見て非情な男にはなりきれず……まあ数の上でも二対一では勝ち目がなかった訳で、仕方のない結果と言えば仕方がないのだが。
「遊園地いこう! 今度の日曜日ね! 決まり!」
こっちの意見を全く聞かずに一ノ瀬がそう決めてしまったことには、多少腹が立っている。
だって、ダブルデートだぞ。
一ノ瀬一人でも気を使うのに、あと二人も付いてくるとなると、ますますどんな話をしたらいいか分からなくなる。いつも教室で顔を合わせている三井にはそれほど気を使わなくて済むものの、あとの一人は……。
四条駿介。
三井と一ノ瀬の幼なじみで、三井とは家が隣同士だという。同い年だが他校に通っているので、噂でしか聞いたことはない。俺との面識は過去に一回、10月の文化祭でたまたま三井と歩いているところを見かけて挨拶程度に話をしただけ。
その時の印象は、『普通の奴だった』としか言いようがなかった。
外見も特に特徴がなく、一ノ瀬の話によれば性格も良くも悪くもなく普通で、成績も運動神経も家庭環境も全てが平均的で普通なのだという。
かえって困るだろう。そんなやつと何を話せばいいんだよ。
ある意味、何かを期待している一ノ瀬と二人でいるより気まずいことになりそうだ。今後も一ノ瀬と付き合っていく限り、幼なじみの駿介とは何度も顔を合わせる羽目になりそうだし、いい加減なことはできない。
「重いな……」
誰からも普通だと言われている男にもしも自分が「つまらない男」だなどと思われたら。
俺は普通以下の最低な男だ──ということになる。
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