星の邂逅

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 当初の目的もなくなり、丸一日、宙ぶらりんとしてしまった。きっとこのままアパートに帰っても、啓吾への腹立たしい気持ちが蓄積されるだけになる。いっそこのまま、遠くまで行ってしまおうか。    そんな事を考えながら、杏奈はスマホアプリを流し見た。気分転換になりそうなものが、何か見つかるかもしれない。  そうして出てきた記事を見た時、杏奈は息をつまらせた。  次世代のヌーベルキュイジーヌ・高良聡と書かれたタイトル。凛々しい眉毛に垂れた細い目。笑った口元の、特徴的な八重歯。白いコックコートに身を包んだその男性は、杏奈のかつての恋人。  別れたのは20歳の夏。それからもう8年も経っている事に杏奈は驚いた。  コラムの記事によると、彼は自身のビストロを構え、オーナーシェフとなって頑張っているようだった。    写真の聡の表情は自信に満ち溢れている。あの頃より大人になっているけれど、面影は変わらない。元恋人としては誇らしい。  その反面、自身の今の状況との落差が激しすぎて、更に惨めな気持ちになった。
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