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 「……またげろ吐きそう」  小倉奈々子は柿ピーナッツをにしながらミクターズのバーボンをぐいぐい(あお)っていた。トイレに立つのも、いや、シンクに吐くのも面倒くさく収納戸棚に背をつけて、両足を開いて座っていた。  げえっと吐くたびに、口から三センチほどの小人たちがフロアに飛び散る。小人たちは、露出度が高く、派手なスパンコールの輝く衣装に、宝塚のフィナーレのような羽までつけていた。ときどきはちゃんと着飾った楽隊も出現する。  サンバカーニバルの小人たちだった。  吐いた直後、奈々子はサンバカーニバルのとくに目立つ女性をとっくり眺めようと手を出すが、やはりこれはアル中の幻視であり、彼女の手はサンバカーニバルを捕まえられない。  いちいち追うのも面倒なのでサンバカーニバルは放っていたが、どうも外に出たいらしく、玄関に蝟集(いしゅう)している気配がする。手に触れられないのだから玄関のドアもすり抜けていけるはずなのがそうでもないらしい。  ついさっき、十五分ほど前のことだった。  コスプレ衣装ネット通販で買った、初代プリキュアのキュアブラックの衣装をばっちりキメて、要はプリキュアおたくの旦那、(やすし)に男性の本能や情欲の刺戟とマンネリ打破を試みた。
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