6人が本棚に入れています
本棚に追加
アナログ作業をする漫画家の緊急時の裏技。
それは漫画のコマごとに原稿用紙を切り、アシスタント達に配ってコマごとに作業してもらうこと。
原稿用紙一枚分をペン入れに背景やモブや小物を書き、ベタ塗り、トーンを貼るという工程は多すぎる。一人の工程が進まなければ後がつっかえる。
なのでコマごと。切り離した一コマずつ各アシスタントにやってもらえば、後がつかえることなく皆に作業してもらえて効率がいい。そして最後にコマを集めて貼り合わせて提出すればいい。
これは『あと五分で担当編集が来る……!』という時に使える裏技。
ただひとつ、難点はあって、
「ヒトコマ足りない!」
難点とは切り取ったコマが、多数の人の手に渡っているうちにどこかにいってしまうこと。
そんな訳で少女漫画家の俺はあと五分で担当さんが来るというこの状況に冷や汗がとめどなく流れていた。
「どうすんだよ! 主人公が当て馬に告白されて悩んでるコマがない!」
「あすか先生! だからデジタル作業に移行しろって行ったじゃないですか!」
「黙れララ!」
あすかというのか俺のペンネームである。そしてララというのはアシスタントである弟子のペンネーム。ちなみにどちらも男性。本名は知らない。
だって、こんな可憐な少女漫画の世界を作っているのが男だと知られたくない。なので事情知る関係者の前でもペンネーム呼びを貫いてもらっている。
ララは見るからに今どきの男子でデジタル機器に強く、自分でもデジタル作画で少女漫画を描いているらしい。
俺は今でも忘れない。『え、漫画って墨汁で描けるんですか?』と石器時代を眺めるように言ったララのことを。
最初のコメントを投稿しよう!