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「ったく。健一はこんなやつのどこがいいんだか」
「なんでアイツが出てくんだよ」
空也は思わず、煙草を揉み消す手を止める。
「は?」
思い切りマヌケな顔な亮介に、むしろこっちが驚く。
「亮介くん、しーっ」
となりにいた彰が慌てて亮介を静止する。
「まさか、こいつ、まだ健一と何もないのか」
うんうん、と頷く彰に亮介はマジか、と小さく呟き、二人して空也を軽蔑のまなざしで見つめる。なんで、自分が二人にそんな目で見られなきゃならないのか。
そもそも二人のやりとりが何を示すのか、空也には理解できない。
「なんだよ、二人して。なんで健一が関係あるんだよ」
「おまえ、どんだけあいつを待たせてんだよ。いい加減、気づけよ」
「待たせるって、何のことだ?」
自分がわからないことで話題が占めると徐々に苛立ちが増してくる。大人げないと言われても今後も直すつもりはない。
「亮介くんー。そういうことはさ、せめて本人の口から」
「おい、彰、説明しろよ。健一がなんだよ」
立ち上がった空也はしどろもどろになる彰に、詰め寄る。
「いや、えーっと……もー、亮介くんが余計なこと言うから」
「十年経っても進展してないのに、今更気づくワケないだろ、クソ鈍感」
「誰がクソ鈍感だ、コラ。てめぇ、何をワケわかんねーこと言ってんだよ!」
今度は亮介の正面に立つ。元々学生の頃から喧嘩三昧していた空也にとって、詰め寄って凄むのは得意で、たいていの人間はこれで怯むのだが、もとから力で屈服しない亮介にそんな脅しは通用しなかった。それどころか空也を上から見下すような目をして、亮介は言い放つ。
「健一は高校のときからずっとおまえのことが好きなんだよ」
「は?」
一瞬、空也の思考が停止した。
健一が俺の事が好きって、どういうことだ。彰の顔を見ると、慌てて顔を背けられた。え、これ、マジな話?
屋上でいつものように煙草を吸いながら、バンド結成十年目にして初めて明かされた。小学校のときからの幼馴染で、中学高校と共に過ごし、今では同じバンドのメンバーである健一が、自分のことが好きだと――
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